【1288】 △ 読売新聞科学部 『日本の科学者最前線―発見と創造の証言』 (2001/05 中公新書ラクレ) ★★★

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○日本人ノーベル賞受賞者(サイエンス系)の著書

その後をノーベル賞の受賞状況で振り返ってみると...(まあまあ、いい線?)。

日本の科学者最前線―発見と創造の証言.jpg  ノーベル物理学賞 日本人3氏 .jpg 2008年10月8日付「朝日新聞」
日本の科学者最前線―発見と創造の証言 (中公新書ラクレ)』 ['01年]

森の人四手井綱英.jpg 日本の森林生態学の草分け的存在で、「里山」という言葉の生みの親でもある四手井綱英(しでい・つなひで)氏の訃報(1911.11.30〜2009.11.26/享年97)が入ってきて、本人が書いた本は読んだことが無いのですが(作家の森まゆみ氏が書いた評伝『森の人 四手井綱英』('01年/晶文社)がある)、他でも名前を見た気がすると思ったら、この本がその内の1つでした。

 '00年1月から3月まで読売新聞の夕刊に連載された、54人の科学者へのインタビュー「証言でつづる知の軌跡」を書籍化したもので、科学の最先端分野でどのような研究がなされてるかを俯瞰することが出来きるという点では手っ取り早く、但し、元が新聞コラムであり、字数制限もあるため、1人1人の研究成果の解説は浅いものにならざるを得ません(後にノーベル賞を受賞する益川敏英氏が、この当時から英語嫌い、海外にいくのが嫌いだったとか、人柄を表すエピソードは楽しめる)。それでも、前書きにあるように、「日本にも独創的な科学者が、こんなにもいるということ」を、それなりに認識させられた記憶があります。

利根川 進.jpg ノーベル賞が科学者の絶対的な業績指標だとは思いませんが、サイエンス系のノーベル賞は、平和賞や経済賞、文学賞に比べれば、まだ幾らかは客観的指標になり得るのかなと個人的には思っていて、この54人の中にも後のノーベル賞受賞者が結構いるなあと。

 このリストの中で、連載当時のノーベル賞受賞者は、江崎玲於奈氏('73年/物理学賞)と利根川進氏('87年/医学・生理学賞)しかいませんでした。それが、連載のあった年に白川英樹氏が受賞し('00年/化学賞)、そして本書刊行直後に野依良治氏が受賞('01年/化学賞)、更に、小柴昌俊氏の受賞('02年/物理学賞)と続きました。

ノーベル物理学賞を受賞した(左から)小林誠、益川敏英、南部陽一郎の3氏.jpg その後暫く日本人の受賞は無く、それが、'08年になって、小林誠・益川敏英両氏と南部陽一郎氏の物理学賞の受賞が相次ぎました(南部陽一郎氏はアメリカ国籍)。現在は海外で研究活動をしている人も含め、皆、日本の大学で学んだか卒業した人ですが、全員、国立大学出身で私立大学卒はいません['09年現在]。

小林誠、益川敏英、南部陽一郎の各氏

田中 耕一 記者会見3.jpg下村脩.bmp この間のサイエンス系のノーベル賞受賞者で、本書のリストに無いのは、島津製作所の田中耕一氏('02年/化学賞)と"オワンクラゲ"の下村脩氏('08年/化学賞)ということになります('08年は、前記小林誠・益川敏・南部陽一郎氏と下村脩氏の合わせて4人が受賞)。

田中耕一氏/下村脩(おさむ)氏

梶田隆章 小柴昌俊12.jpg 54人から既に受賞していた2人を除くと52人、'09年現在、その内の6人がノーベル賞を受賞したことになります。リストには、数学などノーベル賞の対象外の分野や対象になりにくい分野の研究者が挙げられていることを考えれば、まあまあ、いい線(?)ではないでしょうか(リスト中の研究者では、その後やや間が空いて、中村修二氏('14年/物理学賞、アメリカ国籍)、大村智氏('15年/医学生理学賞)と続く)。一方で、'08年7月には小柴昌俊氏の愛弟子で、小柴氏が'09年のノーベル賞受賞は確実としていた戸塚洋二氏が壮絶なガン死を遂げており、こちらは97歳で亡くなった四手井綱英氏とは対照的に66歳という若さでした(その後、小柴研究所での戸塚洋二氏のいわば弟弟子にあたる梶田隆章氏が受賞('15年/物理学賞))
梶田隆章氏・小柴昌俊氏

 その他にも、宇宙物理学の小田稔('01年3月逝去)、「サル学」の伊谷純一郎('01年8月逝去)、人類学の埴原和郎(04年10月逝去)、情報伝達酵素発見の西塚泰美('04年11月逝去)の各氏が亡くなっていて、ノーベル賞を貰うには、業績もさることならば、ある程度長生きしなければならないのかなあと(南部陽一郎氏は87歳での受賞で、受賞対象の業績は40年も前に発表されたもの)。

 やはり、戸塚洋二氏はとりわけ無念だったことでしょう。個人の名誉もさることながら、自分がやった研究の成果がより多くの人に認知され、それが後継の励みになることを望んでいたでしょうから。ただ、先月('09年11月)96歳で死去した俳優の森繁久弥氏に国民栄誉賞が贈られることになりましたが、「死者に与えない」というルールは、死者まで候補にすると収集がつかなくなるという事情もあるかと思いますが、ノーベル賞の一つの見識とみることもできるのではないかと思っています。

《読書MEMO》
●科学者54人のリスト 青字は読売新聞連載後にノーベール賞を受賞した人[2015年現在](緑字は連載前に既に受賞)
【生命科学】
・伊藤正男  「長期抑圧」現象の発見、記憶の謎に迫る
・小西正一  聴覚の立体地図を作る
・増井禎夫  細胞分裂の仕組み解明に先駆的成果
・浅島 誠  分化を導くたんぱく質の発見
・竹市雅俊  細胞接着因子を特定
・日沼頼夫  白血病を起こすウイルス発見から人類学へ
・西塚泰美  情報伝達酵素を発見
・宮田 隆  分子レベルで進化に迫る
・太田朋子  分子進化の「ほぼ中立」説を提唱
私の脳科学講義.jpg●利根川進  「抗体の多様性」の謎を解明

【医学】
・石坂公成  アレルギーが起こる基本的仕組みを解明
生命の意味論.jpg・多田富雄  免疫の調節機構の存在を裏付け
・岸本忠三  免疫物質の遺伝子を特定
・谷口維紹  世界初のインターフェロン(β)遺伝子解析
・杉村 隆  発がん物質をつきとめる
・大河内一雄 血清肝炎の抗原をつかまえる
大村智 2億人を病魔から守った化学者.pngノーベル生理学医学賞 大村智氏.jpg●大村 智(2015年ノーベル医学生理学賞)  熱帯病の特効薬作る放線菌を発見
・原田正純  胎児から成人までの水俣病の実態に迫る

【化学】
・向山光昭  合成化学で世界をリード
●野依良治(2001年ノーベル化学賞)  「不斉合成」理論の形成と実証
・中西香爾  天然化合物の構造を動的に解明
・岸 義人  猛毒物質パリトキシンンを人工合成
・樋口隆昌  樹木の硬さの謎に挑む
・鈴木昭憲  昆虫の変態ホルモンを解明
・井口洋夫  電気を通す炭素化合物を発見
●白川英樹(2000年ノーベル化学賞)  導電性ポリマーの開発

【生態学】
・伊谷純一郎 独自の手法で、サルの社会構造を解明
・青木淳一  日本のダニ研究を世界のトップレベルに
人類の進化史 埴原和郎.jpg・埴原和郎  日本人のルーツを骨から探究
・四手井綱英 森林生態学を創設、地球環境保護へ

【地質・気象】
・丸山茂徳  まったく新しい地球観「超プルーム」提唱
・平 朝彦  地層の記録からプレートの沈み込みを実証
・真鍋淑郎  全地球を覆う気候モデルを開発
・阿部勝征  津波メカニズムの解明と災害情報
・金森博雄  「リアルタイム地震学」を提唱

【工学】
ノーベル賞 中村修二.jpg赤の発見 青の発見.jpg●中村修二(2014年ノーベル物理学賞)  夢の青色光源を発明
・西澤潤一  光通信の基本を考案
・嶋 正利  世界初のマイクロプロセッサ開拓
・坂村 健  国産OS「トロン」を開発
・池田武邦  超高層ビル時代を開拓
・藤島 昭  光触媒の応用へ道開く
・飯島澄男  カーボンナノチューブを発見
●江崎玲於奈 エサキ・ダイオードを生み出す

【宇宙】
・小田 稔  宇宙から届くエックス線の謎を解く
・林忠四郎  極微の素粒子から極大の宇宙を構想
「相対性理論」の世界へようこそ.jpg・佐藤勝彦  宇宙膨張のメカニズムを解明

【物理】
ノーベル物理学賞を受賞した(左から)小林誠、益川敏英、南部陽一郎の3氏.jpg●南部陽一郎(2008年ノーベル物理学賞) 物理学の「標準理論」構築に貢献
●小林誠/益川敏英(2008年ノーベル物理学賞) 素粒子理論で革新的成果をあげる
・近藤都登  実験物理学で「トップクオーク」の存在証明
ニュートリノの夢 岩波ジュニア新書.jpg小柴 昌俊.jpg●小柴昌俊(2002年ノーベル物理学賞)  「ニュートリノ天文学」を切り拓く
・戸塚洋二  素粒子「ニュートリノ」の質量を確認
・外村 彰  干渉型電子顕微鏡で磁力の謎に挑む

【数学】
・広中平祐  複雑な図形から方程式を導き出す

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