【368】 ◎ 多田 富雄 『生命の意味論 (1997/02 新潮社) ★★★★☆

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「免疫の意味論」の"発展形"の本。興味深く読めて、示唆に富む。

生命の意味論.jpg  『生命の意味論』 (1997/02 新潮社)

 『免疫の意味論』('93年/青土社)に続く本書では、免疫学者・多田富雄氏の生命観や「スーパーシステム」(それ自体に直接の目的はなく、システム自体が自己目的化して増殖し発展していくという動き)の概念がよりわかりやすく書かれています。『免疫の意味論』の"姉妹本"というよりも、「生命」や「社会」のシステムにまで考察が及ぶ点では"発展形"の本であると言えます。「自己」とは何かを考察して大きな反響を呼んだ『免疫の意味論』をさらに発展させ、「スーパーシステム」の概念が言語や社会、都市、官僚機構などにまで当て嵌まるのではないかとしています。

 免疫機能や遺伝子に関するテーマにも引き続き触れていて、人間はウイルスと共存していたのに、なぜエイズウルスのようなものが現れたのか?とか、オタマジャクシが蛙になるときに尾が失われるのもアポトーシスによるとか、男脳・女脳の違いは視床下部にある神経核の大きさの違いだとか、鶏にウズラの脳を移植するとウズラ行動をとるが、やがて免疫反応で死ぬ、といった興味深い話も満載です。

 「免疫」とは「非自己に対して行う自己の行動様式」。そこには「自己」という「存在」があるのではなく、「自己」という「行為」があるのみ―。この部分を読み、今まで免疫における「自己」を擬人化して捉えていた自分の勘違いに気づかされました(「免疫」とはあくまで「行動様式」として捉えるべきであることを再認識させられた)。

 「免疫」システムだけでなく、「生命」や「社会」のシステムについて考える上で、多くの示唆を与えてくれる本です。都市の中でも、スーパーシステムを持っている都市と、あらかじめ青写真が出来てから作られた都市(その場合の都市はスーパーシステムを持たない)があるという下りなどは、興味深いです。

「シムシティ」のゲーム画面(PC版1989年/1991年ファミコン版・スーパーファミコン版)
シムシティ.jpgシムシティ fc.jpgシムシティ 1991.jpg 1989年に第1作が発売された「シムシティ」というシミュレーションゲームを思い出しました。このゲーム、操作しなくても勝手に都市が増殖していく場合があるのですが、だからと言って長時間放置していると、いつの間にか怪獣ゴジラが現れ、あちこち歩き回って街を破壊していたりしていました。


《読書MEMO》
●サトカイン...様々な細胞を作り出すホルモン様分子群(14p)
●造血幹細胞...サトカインが働くと赤血球、血小板、T細胞、B細胞などを作る-骨髄移植etc(受精卵から様々な組織ができる「発生」の仕組みとと類似)(28p)
●「スーバーシステム」...単一なものが、まず自分と同じものを複製、ついで多様化することにより自己組織化。そして充足した閉鎖構造を作ると同時に、外部情報を取り込み自己言及的に拡大していく。(56p)
●動物はウィルスと共存。人間のウィルスが豚や鳥に感染すると、2種類のウィルスがゲノム内の遺伝子の一部を交換し、凄みのある変身を遂げる。住血吸虫(タニシ)同様、エイズ(猿)等の原因は自然界への人間の侵入(76-78p)
●アポトーシス...オタマジャクシが蛙になるとき、尾が失われる仕組み(84p)
脳神経系が形成される時、必要以上に神経細胞や神経線維が発生しする(90p)
●胸腺では「自己」見本によりT細胞をチェック、95%が自殺してしまう(95-96p)
●男脳・女脳は視床下部の神経核の大きさの違い(エイズ患者より)(112p)
●ミトコンドリアは卵子にはあるが、精子にはない(124p)
●鶏にウズラの脳を移植すると、ウズラ行動をとるがやがて免疫で死ぬ(144p)
●「免疫」とは、「非自己」に対して行う「自己」の行動様式。そこには自己という「存在」があるのではなく「自己」という「行為」:があるだけ(147p)
●寿命を決めるのは、テロメテア(DNAの一部で、細胞分裂の毎に短くなる)(124p)でなく、胸腺ではないか(181p)

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月 2日 01:39.

【367】 ◎ 立花 隆/利根川 進 『精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』 (1990/06 文芸春秋) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

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