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5巻で100万部! ガリレオがいなかった世界―状況設定がユニーク。
『チ。―地球の運動について― (1) (BIG SPIRITS COMICS)』
15世紀前半のヨーロッパのP王国では、C教という宗教が中心となっていた。地動説は、その教義に反く考え方であり、研究するだけでも拷問を受けたり、火あぶりに処せられたりしていた。その時代を生きる主人公・ラファウは、12歳で大学に入学し、神学を専攻する予定の神童であった。しかし、ある日、地動説を研究していたフベルトに出会ったことで地動説の美しさに魅入られ、命を賭けた地動説の研究が始まる―。
昨年['20年]9月14日発売の「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)42・43合併号から連載中の魚豊(うおと、1997年生まれ)による〈歴史ファンタジー〉漫画で、「マンガ大賞2021」第2位受賞作。先月['21年9月]に単行本第5巻の発売をもって、シリーズ累計部数が100万部を突破したというからスゴイ売れ行きです(その後、2022(令和4)年・第26回「手塚治虫文化賞(マンガ大賞)」受賞)。
第1巻しか読んでませんが、ガリレオがこの世に生まれてこなくて、天動説が正しいとする考え方の支配が維持されたままだったらという状況設定の下、地動説を信じ、命を懸けて地動説を論証しようとする人々の生き様を描いています。
こうした設定自体が、なかなかユニークだと思いましたが、第1巻で主人公が死んじゃうのですねえ。後、どうするんだろうと思ったら、どんどん次の人というか次の世界に話を繋げていくようです。これって、結構。描く側はたいへんだと思いますが、ちゃんと構想は出来上がっているのでしょう。
国や宗教の表記がP国とかC教とかになっていることについて、隠す意味が分からないとの声もあるようですが、一方で、あまりにも史実とかけ離れているからそうしたのだろうとの声もあります。おそらく、そうだろうなあ。ガリレオがこの世に生まれてこなくて、天動説が確固たる地位を占めているというところから、もう別世界の話だからなあ。
となると、この漫画はある種ダークファンタージであり、こうした設定をベースに、閉塞的な思想弾圧状況の中で、真実に近づこうとする時、人はどう生きるかとう問題を投げかけていると言え、そうなると、この漫画に類する(喩えられる)状況はいくらでもあるように思います。
中高生でもすっと入っていけるような状況設定で、そうしたことを考えさせるっという点では上手いと思いました。ただ、主人公があっさり死んでしまうのが、やや命が軽く描かれているような気もしました(実際、現代よりはずっと命の軽い時代だったとは思うが)。続きに期待したいです。