【3012】 ○ 松本 清張 『証明 (1970/02 ポケット文春) ★★★★

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「松本清張スペシャル・留守宅の事件」)

「留守宅の事件」ほか"社会派"の面目躍如といった作品群。どれも面白かった。

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『証明』(ポケット文春)/『証明 (文春文庫)』/『新装版 証明 (文春文庫)』/火曜サスペンス劇場「松本清張スペシャル・留守宅の事件」('96年/日本テレビ)古谷一行/内藤剛志

『証明』 (1970 ポケット文春)1.jpg 「証明」(オール読物、1969年)、「新開地の事件」(オール読物、1969年)、「蜜宗律仙教」(オール読物、1970年)、「留守宅の事件」(小説現代、1971年)の4編を所収。この中で、「密宗律仙教」は、印刷屋の渡り職人をしていた男が高野山で修行して新興宗教を起こす話で、宗教団体がどう生まれ、どう成長するか、そのプロセスが丁寧に描いていて面白かったです。最後の方に注射による犯罪行為が出てきますが、それは付け足しのようなもので、むしろノンフィクションタッチで描かれる教団および教祖誕生のプロセスが読み処であったように思います。他の3編は―。

「証明」
 高山久美子の夫・信夫は5年前に会社勤めを辞め、文芸雑誌への小説の持ち込みを続けていた。信夫の作品は同人雑誌に時々掲載されたが、一流の文芸雑誌からは原稿を突き返される日々が続いた。美久子は婦人雑誌の下調べの仕事をしていたが、無収入の状態が続く信夫は、久美子が帰宅すると当て付けるように荒れ狂ったり、妨害したりするのだった。妻に養われているという卑屈感が原因とはわかっていたが、いまさら文学を止めて下さいと久美子は言えなかった。不規則な久美子の仕事時間に疑念を持つようになった信夫は、久美子にその日の行動の明確な報告を要求し、辻褄の合わないと怒るようになった。ある日、久美子は取材のため、洋画家の守山嘉一と赤坂のレストランで会った。帰宅途中、守山が名うてのプレイボーイの評判があることに気づく。信夫には隠さなければならない...。久美子は守山に再び会い、口止めを懇願する―。

 主人公が夫の疑いを避けるために自分の行動記録の改竄したことよって、逆に自分自身を追い込んでしまう話かと思いましたが、途中までそうした様相を呈していたものの、終盤に話は思わぬ急展開をしました。肉食系っぽい守山とは何も無かったのに、一見乾いた感じの仏文学者の平井と...。結局、夫の嫉妬には耐えることができたけれど、自分の方のそれは抑えられなかったということになるでしょうか。今まで夫の下で我慢していた分、抑圧された情動が一気に発散されて、「本気」になってしまったということなのかもしれません。平井への嫉妬が恨みに転じて...。それにしても、その瞬間によく犯行を思いついたものだなあ。犯罪は犯罪に違いないけれど、ある種の無理心中と言えるかも。

月曜ドラマスペシャル 証明.jpg この「証明」はこれまでに2度、1977年にTBS「東芝日曜劇場」で大原麗子・山本學主演で、1994年の同じくTBSの「月曜ドラマスペシャル」で風間杜夫・原田美枝子主演でドラマ化されていますが、いずれも個人的には未見です。


「新開地の事件」
 東京西部の北多摩郡、農地が開発されベッドタウン化しつつある地域で、長野直治は妻のヒサ・娘の富子と3人で暮らしていたが、ある時、九州から下田忠夫というゴツゴツした風貌の男が来て、間借人として直治の家に入ることになった。忠夫は菓子職人の見習いとして中央線沿線の有名菓子屋に通った。やがて職人となった忠夫は、富子と結婚することになり、長野家の養子に入る。やがて忠夫は直治の援助もあり、新宿の近くに洋菓子店を開業、店は繁盛した。1年後、直治は卒中で倒れ体が不自由になり、その2年目、直治は庭先で転倒し頭を打ったことが原因で死んだ。ヒサの身の振り方が問題となったが、土地を売って忠夫の店に同居するよう提案されるも、ヒサは頑なに拒否する。そうした中、ヒサの絞殺死体が発見される。忠夫の不審な行動に着目した警察は、行方不明となった忠夫を全国に指名手配、2週間後に逮捕された忠夫は、警察の推定した通りに犯行を自供する。しかし、その供述に検事は疑問を抱く―。

 土地を売る売らないの件でなぜ揉めるのかなあと思いましたが、最後に思わぬ真相が明かされてビックリ。ちょっとこの「動機」は思いつかないなあ。推理しようがなかったです。母と娘と娘婿の性の確執かあ。「どろどろ度」は4編の中で一番でした。

知られざる動機.jpg この「新開地の事件」は、1983年に日本テレビの「火曜サスペンス劇場」枠で藤真利子主演で「松本清張スペシャル・松本清張の知られざる動機」というタイトルで(まさにタイトル通りだが)ドラマ化されています。地主の一人娘・長野富子を藤真利子が、富子の結婚相手・下田忠夫を高岡建治が演じ、富子の母・長野ヒサは吉行和子、父・直治は内田朝雄が演じていますが、こちらも未見です。


「留守宅の事件」
 足立区・西新井の栗山敏夫宅の物置で、栗山の妻・宗子の死体が発見された。萩野光治は栗山の友人であったが、宗子に好意を持っていた。栗山の留守中に宗子のもとを訪れていたことが露見し、萩野は殺人の容疑者として逮捕される。他方、捜査主任の石子警部補は、萩野が宗子を犯さなかった点、栗山の素行に問題があった点から、真犯人は栗山だと考える。しかし、自動車セールスマンの栗山は仕事で東北各地を廻っており、その合間を縫って東京の宗子を殺すことは、まったく不可能であるように思われた―。

 "ミニ「点と線」"みたいな感じで面白かったです(この作品は1972年・第3回「小説現代読者賞」に選ばれている)。文庫解説の阿刀田高氏も、表題作よりも先にこちらの方を取り上げているくらい。犯人の見当はすぐつきますが、どうやってアリバイを崩すかが焦点になっています。個人的には、終盤ばたばたっと急展開する「証明」よりもこちらの方がオーソドックスと言うか、やや上に思えました。

留守宅の事件」ドラマt3.jpg この「留守宅の事件」は、1996年に日本テレビの「火曜サスペンス劇場」枠で古谷一行・内藤剛志主演で、2013年にテレビ東京の「水曜ミステリー9」枠で寺尾聰主演(刑事役)でそれぞれドラマ化されていますが、「火曜サスペンス劇場」版の「松本清張スペシャル・留守宅の事件」を観ました。

「留守宅の事件」0.jpg 容疑者にされてしまう萩野光治(古谷一行)は、原作と異なり、被害者の栗山宗子(洞口依子)と従兄妹関係にあり、かつて一度だけ肉体関係を持ったことがあるという設定となっていました。さらに、萩野は警察に逮捕されそうになる直前に逃れ、潜伏しながら妻(余貴美子)の助けを借りて、栗山(内藤剛志)が真犯人であるとの確証を得るに至り、自らその鉄壁のアリバイ崩しに挑むというもの(犯人の濡れ衣を着せられた男が逃亡しながら真犯人を突きとめるという「逃亡者」のリチャード・キンブルのスタイル)。最後は事件を解き明かすも、妻は自分の下を去って行くというほろ苦い結末でした(脚本は大野靖子(1928-2011/82歳没))。

古谷一行(萩野光治:会社員)/内藤剛志(栗山敏夫:萩野の後輩、セールスマン)/洞口依子(栗山宗子:栗山の妻、萩野の従妹、絞殺被害者)/余貴美子(萩野芳子:萩野の妻)/平泉成(石子静雄:警視庁警部補、捜査主任)/芳本美代子(高瀬昌子:栗山宗子の妹)

「留守宅の事件」ドラマ2.jpg 金田一耕助役のイメージが強い古谷一行が、被疑者とされながらも自ら事件の真相を探る"探偵"の役割を演じているのはともかく、最近は刑事役が多い内藤剛志が犯人役を演じているのが興味深いですが、思い起こせばこの当時は結構犯人役や被害者役もやっていた記憶があります(1994年のTBS「月曜ドラマスペシャル」版の松本清張原作「証明」では、主人公に殺害される仏文学者の平井の役で出ている)。

内藤剛志/古谷一行

「松本清張スペシャル・留守宅の事件」3.jpg「松本清張スペシャル・留守宅の事件」●監督:嶋村正敏●プロデューサー:佐光千尋(日本テレビ)/田中浩三(松竹)/林悦子(『霧』企画)●脚本:大野靖子●音楽:大谷和夫●原作:松本清張「留守宅の事件」●出演:古谷一行/内藤剛志/余貴美子/洞口依子/芳本美代子/平泉成/加地凌馬/内田大介/岡崎公彦/小畑二郎/米沢牛/佐竹努/西塔亜利夫/白鳥英一/阿倍正明/大橋ミツ/但木秋寿/木村理沙●放映:1996/01/09(全1回)●放送局:日本テレビ

 こうしてみると、「密宗律仙教」以外の他の3編にしても、文庫解説の阿刀田高氏も指摘しているように、「推理」そのものよりも、「社会」や「人間」にウェイトを置いた作品であったように思われ、"社会派"と呼ばれた作者の面目躍如と言える作品群でした。

【1976年文庫化・2013年新装版[文春文庫]】

   「留守宅の事件」ドラマ3.jpg



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和田泰明

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