【2145】 △ 阿部 豊 「愛よ星と共に (1947/09 東宝) ★★★

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やや大味とも言える波乱万丈型ストーリーのお蔭で、高峰秀子の演技の幅を実感できる?

愛よ星と共に ポスター.jpg 「愛よ星と共に」ポスター 愛よ星と共に vhs.jpg VHS(国際放映・日本映画傑作全集) 下スチール写真中央:高峰秀子
愛よ星と共に 01.jpg 十年ぶりに北海道の北島牧場を訪れた邦彦(池部良)は、牧夫頭の娘はるえ(高峰秀子)と再会した。とても美しくなったはるえをみた邦彦はとても驚いたが、綺麗になったと言われ自分の姿を小川の水に映しては何時までも自分を見つめる彼女は、まだ無垢な乙女そのものであった。邦彦とはるえは、牧場の小川で一夜を過ごした。はるえは邦彦の語る美しい星の話を興味深く熱心に聞いていた。しかしその話はあまりにも美しくあまりにも巧みな運命の夢だった。邦彦が東京へ帰ってから数月、はるえの腹には美しい星の子供が宿っていた。父からの反対に耐え切れず、はるえは家を飛び出し東京の邦彦を訪ねるが、時すでに遅く、彼がフランスへ旅立った後だった―。

愛よ星と共に41.jpg 阿部豊(1895-1977)監督の1947(昭和22)年「新東宝」作品で(黒澤明の「野良犬」('49年)などと同じく製作会社は「新東宝」で配給会社は「東宝」)、池部良(1918-2010)、高峰秀子(1924‐2010)主演ですが、この2人、同じ2010年、池部良は10月18日(享年92)、高峰秀子は12月28日に(享年86)それぞれ亡くなっていることに改めて思い当った次第です(共に名エッセイストでもあった)。

阿部 豊 「愛よ星と共に」21.jpg 牧場主、つまり上流階級に属する男性と恋し合って一夜を共にするも、娘より自らが仕える本家の方を気遣う牧夫頭の親によって勘当され、北海道の家を出て東京にその男性を追うも、恋人は海外へ渡航した後。身重の身で生活すらままならず、独り寂しく赤ん坊を産むが、その赤ん坊にも病で死なれて、女給の生活に身を窶(やつ)す。しかし、やがてその世界で「花形女給」として名を馳せるようになり、そんな中、男女のもつれからある男を誤って銃で死なせてしまう。世間からは次々と男を渡り歩く毒婦のようにみられ、裁判でも死刑判決を受けるが、自身がこの世界に身を置くようになった契機が、赤ん坊が亡くなったことにあるとは判明するも、その赤ん坊が誰との間の子であったかは公判で明かすことなく、判決を受け入れようとする。そこへ―。

阿部 豊 「愛よ星と共に」31.jpg 女性映画と言うかメロドラマと言うか、しかもハーレクインみたいな波乱万丈(或いはシドニィ・シェルダン風か)。テレビがある時代なら13話連続のテレビドラマだろうけれど、まだテレビが登場する何年か前なので、TVドラマが担っているような役割を、その分も含め映画が担っていたのだなあと思わせる作品でした。

 やや強引な話の展開はともかくとして、やはり注目は、高峰秀子の演技でしょうか。彼女は、天才子役からアイドル女優、そして本格女優へと各ステップにおいて確実に成長を遂げた稀有なケースであり、様々な作品への出演を通して、純真無垢な娘から恋する乙女、社会の底辺に生きる女から生活のために水商売に墜ちる女、そうした世界で妾になったり売れっ子になったりする女などを演じ分けきたわけですが、この作品では、やや大味とも言える波乱万丈型ストーリーのお蔭で、彼女の演技のそうした(全てとまでは言わないまでも)多くのパターンを一作品の中で堪能することができます(結果的にその点がこの作品の一番の見所となっているのでは?)。

 高峰秀子は既に人気アイドル女優だった16歳の時(山本嘉次郎監督の「エノケンの孫悟空」('40年)などに出ていた頃)、豊田四郎監督の「小島の春」('40年)に出演した杉村春子(1909-1997)の演技にショックを受けて演技開眼したそうですが(やがて成瀬巳喜男監督の「流れる」('56年)で2人は共演する)、その後、実に演技の幅が広い女優になっていったように思います。但し、この作品出演時は、彼女自身初めて子を持つ母親役を演じ、タバコを吸う役柄も初めてであって、そのためにタバコを吸う仕草の特訓などもしたそうです。そうした努力の甲斐もあってか、娘役だけでなく、淪落の水商売女の演技なども板についていますが、やはり、当時23歳という若さにして「花形女給」(カリスマ・ホステスといった感じか)を堂々と演じ切っているのは、もともと素養的に華があった女優だったからでしょう。一方で、後の野村芳太郎監督の「張込み」('58年/松竹)などでは、そうした華やかさを完全に封印して市井の女を演じていたりもしています。やはり、スゴイ女優だったなあと改めて思います。

愛よ星と共に.gif愛よ星と共に55.gif 因みに、この作品は北海道・幕別町の新田牧場でロケが行われていますが、なぜ新田牧場がロケ地に選ばれたかというと、この映画のプロデューサーだった青柳信雄が札幌の雪印乳業を訪問した時に新田牧場愛よ星と共に ロケ地.jpgを紹介されたとのこと。戦後間もない食糧難の折、当地では白米、牛乳、玉子、肉等などの供給が豊かで、40日のロケ期間中、ロケ隊には毎日が天国のようだったとも言われています。

北海道・幕別町ロケ・新田牧場での集合スナップ(「映画俳優:伊豆肇と池部良」より)

池部良 宇宙大戦争.jpg「愛よ星と共に」●制作年:1947年●監督:阿部豊●製作:青柳信雄●製作会社:新東宝・映画芸術協会●脚本:八田尚之●撮影:小原譲治●音楽:早坂文雄●時間:95分●出演:高峰秀子/池部良/横山運平/浦辺粂子/川部守一/藤田進/逢初夢子/清川莊司/一の宮あつ子/田中春男/鳥羽陽之助/冬木京三/鬼頭善一郎/江川宇礼雄/山室耕/花岡菊子/條圭子/水島三千代●公開:1947/09●配給:東宝(評価:★★★)

池部 良 in 本多猪四郎監督「宇宙大戦争」('59年/東宝)

高峰秀子 in 小津安二郎監督(原作:大佛次郎)「宗方姉妹」('50年)/木下惠介監督(原作:壺井栄)「二十四の瞳」('54年)/成瀬巳喜男監督(原作:幸田文)「流れる」('56年)/野村芳太郎監督(原作:松本清張)「張込み」('58年)
宗方姉妹 高峰.jpg二十四の瞳0 1a.jpg流れる 1シーン.jpg野村 芳太郎『張込み』(1958).jpg

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