【2052】 ○ 芹川 有吾 「わんぱく王子の大蛇(おろち)退治 (1963/03 東映) ★★★★

「●さ行の日本映画の監督」の インデックッスへ  Prev|NEXT ⇒ 「●た‐な行の日本映画の監督」【2520】 滝田 洋二郎 「おくりびと
「●日本のアニメーション映画」の インデックッスへ 「●伊福部 昭 音楽作品」の インデックッスへ「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ「●日本のTVドラマ(~80年代)」の インデックッスへ(「狼少年ケン」)

個人的な思い入れもあり、「白蛇伝」と並んで初期東宝アニメの傑作として推したい作品。

わんぱく王子の大蛇退治 dvd.jpgわんぱく王子の大蛇(おろち)退治.jpg わんぱく王子の大蛇退治 title.jpg わんぱく王子の大蛇退治 0.jpg

わんぱく王子の大蛇退治 [DVD]」['02年]「わんぱく王子の大蛇(おろち)退治 [DVD]」['13年]

わんぱく王子の大蛇退治 2.jpg 王子スサノオは両親イザナギとイザナミのもとで楽しく暮らしていたが、ある日、母イザナミが亡くなる。泣き疲れて浜辺で寝てしまったスサノオの夢に母が現れ、勾玉を与えスサノオを励ます。スサノオは黄泉の国に母を訪ねていくことを決意して舟を作り、ウサギのアカハナを供に船出する。大海原で怪魚を退治して、海の神ワダツミに感謝され、兄ツクヨミが治める夜の国へと案内される。ツクヨミに黄泉の国への道を尋ねるが教えてもらえず、火の国を訪ね、火の国の荒廃の元凶だった火の神と戦い打ち負かす。移住できる豊かな土地を望む火の国の住民の代表タイタン坊を供に加え、スサノウは姉アマテラスが治める高天原に行く。姉の勧めにより高天原で働き始めたものの、失敗が重なり、アマテラスは岩戸に隠れてしまう。日の神アマテラスが隠れて世界が真っ暗になったため、高天原の住人たちは一計を案じ、アマテラスを岩戸から連れ出すのに成功、騒動の責任を感じて反省するスサノオを見て、アマテラスはスサノオを励まし、出雲の国に送り出す。出雲の国は荒廃し、母イザナミの面影を思わせる少女クシナダ姫が怪物・八叉の大蛇(ヤマタノオロチ)の生贄にされようとしていた―。

わんぱく王子の大蛇(おろち)退治2.jpg 神話の天岩戸説話、素盞嗚尊の八岐大蛇退治に材を得た東映動画(現東映アニメーション)の劇場版長編アニメで、東映動画は、「白蛇伝」('58年)を長編第1作とし、その後、「少年猿飛佐助」('59年)、「西遊記」('60年)、「安寿と厨子王丸」('61年)、「アラビアンナイト シンドバッドの冒険」('62年)と世に送り続けていて、'63年劇場公開の本作が第6作にあたります。

高畑 勲.jpg 監督は前作「安寿と厨子王丸」の藪下泰司(「白蛇伝」も、監督名は大川博・東映社長になっているが、実質は藪下が監督)から、当時新人の芹川有吾(1931-2000)に交代しています(この時から正式に"演出"が"監督"になり、名実ともにその役割を全面的に担うようになった)。演出助手(助監督)として「安寿と厨子王丸」の時と同じく高畑勲(1953-2018/82歳没)がついています。

住田知仁.jpg風間 杜夫.jpg スサノオの声は住田知仁(現・風間杜夫、1949年生まれ)が担当。前作「安寿と厨子王丸」に比べて非常に躍動的で、とりわけ、八叉の大蛇と天早駒(アメノハヤコマ)に跨るスサノオの空中戦シーンは半年かけて作画されたもので、原画1万枚超、300カット、日本アニメーション史上に残る名場面とされています(アメリカでは1964年に"The Little Prince and The Eight-Headed Dragon"の題で公開)。ゴジラ映画の伊福部昭が担当した音楽も相乗効果として効いているように思います。
左から久里千春(アカハナ)、川久保潔(タイタン坊)、住田知仁(スサノオ)、岡田由起子(クシナダ姫)

わんぱく王子の大蛇退治3.jpg 個人的には、この八叉の大蛇の出てくる場面だけは、かなりはっきり記憶に残っており、これを学校課題の絵日記に書きました(鑑賞日は公開年の7月20日となっており、他の学校の生徒も劇場に来ていたと書いてあるから、学校で課外授業として観に行ったのかも)。ストーリーの根底は母子物なのですが、「おもしろかった」「ハラハラした」「おかしかった」というのが当時の主な感想で、絵の方に力が入って、感想の方はやや手抜きしたのかも(小学校低学年だとこんなものか)?

わんぱく王子の大蛇退治 10.jpg 最初に観て何十年経た今も、映画の中の闇夜で暴れる八叉の大蛇のイメージが残っているということは、(今のアニメの水準からするとさほどでもないのですが)当時としてはそれだけインパクトがあったということなのでしょう。個人的な思い入れもあって、リバイヴァルで観た「白蛇伝」と並んで初期東映アニメの傑作として推したい作品です。

わんぱく王子の大蛇退治 11.jpg 神話では、素素盞雄神社.png盞嗚尊は、幼少期のマザコン、高天原での凶暴性、八岐大蛇退治での英傑ぶりと多様な側面を持ち、日本で最初に和歌を詠んだとされる文人的側面もあるキャラクターですが、素盞嗚尊って意外と身近なのかも。全国に素盞嗚神社があり、ウチの近所にある素盞雄神社も、素盞雄大神(すさのおおおかみ)を祭神としていますが、但し、明治初期の廃仏毀釈により祭神名をそのように定めたようです(神話研究では八岐大蛇は氾濫しやすい河川に象徴で、素盞嗚尊が治水事業を行って氾濫を治めたことが八岐大蛇退治として象徴化されているとも)。

 因みに、'60年代はテレビの普及に伴い、劇場用アニメーションからテレビ用アニメーションへ主流が交代していった時代でしたが、この時代に「狼少年ケン」('63年-'65年)、「少年忍者風のフジ丸」('64年-'65年)、「魔法使いサリー」(第1作、'66年-'68年)、「ゲゲゲの鬼太郎」(第1作、'68年-'69年)、「ひみつのアッコちゃん」(第1作、'69年-'70年)、「タイガーマスク」('69年-'71年)などを手掛け、テレビ用アニメーションの市民権獲得に貢献したのも東映動画でした。

狼少年ケン.jpg その最初の作品「狼少年ケン」は、'63年元日に放送開始した虫プロダクションの「鉄腕アトム」が、東映動画内では低かった前評判と裏腹に高い視聴率を獲得するようになると、東映動画としても安穏としておれなくなり、元手塚治虫のアシスタントで若手の俊英アニメーターでもあった月岡貞夫ラドヤード・キップリングの「ジャングル・ブック」を参考に自らテレビアニメの企画を提出したもので、月岡貞夫は自ら演出や原画を引き受けましたが、毎週1本のペースで放送されるテレビアニメは、「天才」の異名を取った月岡さえも全話を担当することは不可能であり、1話ごとに担当チームが組まれて制作に当たったものの、作品全体を統括する作画監督が置かれなかったこともあり、月岡はスタッフによる作品の不統一に耐えきれず、放映中の'64年2月に東映動画を退社、虫プ月岡貞夫.jpgなつぞら 猿渡竜男ド.jpgロに活動の場を移しています(2019年度前期のNHK連続テレビ小説で、アニメーターの奥山玲子をモデルとした「なつぞら」(主演:広瀬すず)において「百獣の王サム」(「狼少年ケン」がモデル)奥山玲子(おくやま・れいこ).jpgを担当する猿渡竜男(演:新名基浩)のモデルが月岡貞夫(現・宝塚大学教授)とされ小田部羊一© 文藝春秋.jpgている。因みに、奥山玲子は「わんぱく王子の大蛇退治」と「狼少年ケン」の制作期間の合間の1963年7月7日に同僚だった小田部羊一と結婚しているが、当時は仕事と労働組合活動に追われる日々で、新婚気分を味わうどころではなかったようだ)
奥山玲子(1936-2007) 小田部羊一(© 文藝春秋)

わんぱく王子の大蛇退治 Blu-ray BOX(初回生産限定)」(2020)
わんぱく王子の大蛇(おろち)退治ド.jpgわんぱく王子の大蛇退治 12.jpg「わんぱく王子の大蛇(おろち)退治」●制作年:1963年●監督(演出):芹川有吾●製作:大川博●脚本:池田一朗/飯島敬●演出助手:高畑勲/矢吹公郎 ●撮影:石川光明/菅原英明●原画監督:森康二●原画:古沢日出夫/熊川正雄/大塚康生/永沢詢/奥山玲子ほか●音楽:伊福部昭●時間:86分●声の出演:住田知仁(現・風間杜夫)/岡田由起子/久里千春/木下秀雄/篠田節夫/友部光子/山内雅人/木下秀雄/風祭修一/新道乃里子/川久保潔/巌金四郎/八木光生/山内雅人/古賀浩二●公開:1963/03/21●配給:東映(評価:★★★★)

狼少年ケン1963.jpg『狼少年ケン』〔NET〕4.jpg「狼少年ケン」●企画:NET(宮崎慎一)/東映動画(籏野義文・有賀健)●原作:大野寛夫(月岡貞夫)●キャラクター設計:月岡貞夫●演出:月岡貞夫●音楽:小林亜星●演奏:アンサンブル・ヒポ●作画監督:喜多真佐武/彦根範夫/古沢日出夫/小田部玲子/吉田茂承/林静一/平川謹之介●声の出演:西本雄司/青木勇嗣/水垣洋子/田上和枝/八奈見乗児/内海賢二/大竹宏/神山卓三/増岡弘/桂玲子/山本圭子●放映:1963/11~1965/08(全86回)●放送局:NETテレビ(現テレ朝) 
小林亜星.jpg 小林亜星

1 Comment

作曲家・小林亜星
2021年5月30日、心不全のため死去。88歳。
作曲家として都はるみ「北の宿から」や日立グループ「日立の樹」などの名曲を生み出し、俳優としてもTBS系ドラマ「寺内貫太郎一家」に主演するなどマルチに活躍した。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2013年11月17日 00:04.

【2051】 ? 鈴木 清順 「春桜(はるさくら) ジャパネスク」 (1984/06 電通) ★★★? was the previous entry in this blog.

【2053】 △ 内出 好吉 (原作:香川登志緒) 「てなもんや三度笠」 (1963/06 東映) ★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1