【1166】 ○ 水月 昭道 『高学歴ワーキングプア―「フリーター生産工場」としての大学院』 (2007/10 光文社新書) ★★★☆

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ノラ猫ならぬ"ノラ博士"量産の背景。研究員や非常勤講師は大変なのだということはよく分かった。

高学歴ワーキングプア6.jpg高学歴ワーキングプア.jpg  水月昭道.jpg 水月昭道(みずき・しょうどう)氏
高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

 大学院卒という肩書きを持ちながら就職に苦労している人を過去に何人か見てきましたが、その背景として、大学がとった「大学院重点化」という施策による博士養成数の急激な拡大と、一方で、大学という彼らにとっての就職先そのものにポストがないという現実があることが、本書によりよく分かりました。

 著者によれば、「大学院重点化」と言うのは「文科省と東大法学部が知恵を出し合って練りに練った、成長後退期においてなおパイを失わんと執念を燃やす"既得権維持"のための秘策」だったとのこと、それが90年代半ばからの若年労働市場の縮小(つまり就職難)と相俟って、学生を「院」へ釣り上げる分には何の苦も無くそれを成し得たが、ほぼ終身雇用に近い大学教授のポストにそんなに空きが出るわけでもなく、結果としてノラ猫ならぬ"ノラ博士"を大量に生み出しているとのこと。

 文科省の「大学院重点化」施策に多くの大学が追従した背景には少子化問題があり、学生数の減少を大学院生の増大で補っているわけで(平成3年に約10万人だった院生が、平成16年には24万人余りに増えているとのこと)、大学にも経営をしていかなければならないという事情はあるとは言え、結果として博士号取得済みの無職者(教員へのエントリー待ち者)が1万2千人以上、博士号未取得の博士候補者(博論未提出、審査落ちなどの理由で博士号を授与されていない者)はその数倍いるという現状を生じせしめた、その責任は重いと思いました。

 本書ではそうした"ノラ博士"のフリーターと変わらない生活ぶりなどもリポートしていて(研究員や非常勤講師って、コンビニでバイトして生活費を稼ぎながら学会発表のための論文も書かなければならなかったりして大変なのだなあ)、一方で、"誤って"大学院に進学してしまい、現在就職において苦労しているような人達に対しても、専門にこだわらず発想の転換を促すようアドバイスをしていますが、この"やさしさ"は、著者自身が、そうした道を歩んできたことに由来するものなのでしょう。

 その分、既にベテランの教授職として象牙の塔にいる側に対する憤怒の念も感じられ、そのことが諸事の分析にバイアスがかかり気味になるキライを生んでいるようにも感じられます。
 実際、本書に対する評価はまちまちのようですが、個人的には、研究員や非常勤講師と呼ばれている人達が置かれている現状を知る上では大いに参考になりました(今までその方面の知識が殆ど無かったため)。

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