【1140】 ○ 坂田 靖子 『天花粉 (1986/08 潮出版社・希望コミックス) ★★★☆

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"ゆったり感"と突き抜けたようなナンセンスが大陸的な「天花粉」。『聊斎志異』的雰囲気。

天花粉.jpg 『天花粉 (希望コミックス)』 ['86年] 天花粉 文庫.jpg 『坂田靖子セレクション (第1巻) 天花粉 潮漫画文庫』 ['00年]

 昔の中国で、雨の日は読書、晴れの日は釣りという日々を過ごしていた1人の男が大魚を釣り上げるが、その大魚は竜になるために高い所へ連れて行って欲しいと男に言い、その願いを聞き、仙人のご馳走になりかけた重い魚を救い出して山頂までしょってきた男が、竜になった魚から貰ったお礼とは―というのが表題作「天花粉」のストーリーですが、突然変身自在のユーモラスな化け物が出てきて大魚の身代わりに仙人の鍋に入ったりしてシュール極まりなく、竜になった魚が「することないから」とまた戻って来て、若者の作ったお粥のご相伴に与ろうとするなど、展開も最後までかなりハチャメチャ、でも、全体を通して大らかでほのぼのしたムードに満ちています。

 その他に、お化けたちが自分達の運営するホテルに人間も泊めてみようと思いたったはいいが、そこはどういう訳か何事においても時間厳守のルールが敷かれていて、たまたま泊まった人間は大変に往生するという「定刻ホテル」や、夜中にパンに曜日の刻印を押す小人達の話「七人の小人」、魔王が自分の宮殿の壁紙の貼り替えに狂奔する「階段宮殿」など、'85(昭和60)年から'86(昭和61)年にかけて雑誌「コミックトム」に発表の全7話を収録。

珍見異聞.gif珍見異聞.2.gif 作者の作品カテゴリーとしては、『バジル氏の優雅な生活』のような英国シリーズや、『闇夜の本』のようなSF・ファンタジー、『珍見異聞』(文庫タイトル『芋の葉に聴いた咄』、『磯の貝に聴いた咄』)のような古典お化けシリーズなどがありますが、本書はそれら色々なものが混ざっている感じで楽しめます。

坂田靖子セレクション (第5巻) 芋の葉に聴いた咄 潮漫画文庫』 『坂田靖子セレクション (第6巻) 磯の貝に聴いた咄 潮漫画文庫

 「天花粉」単体では「古典お化けシリーズ」に近いのかも知れませんが、絵面だけでなく、この鷹揚とでも言うか"ゆったり感"と、突き抜けたようなナンセンスは、やはり大陸的だなあと。
 『珍見異聞』が『宇治拾遺物語』や『今昔物語』に近いとすれば、こちらは『聊斎志異』風とでも言うか(『聊斎志異』も狐の話が最も多く、狐に化かされたというのは日本の昔話の専売特許でも何でもないのだが)。

 作者の坂田靖子氏の作品は遠藤淑子氏などと並んで「全1巻」モノが多いので気楽に楽しめますが、とりわけ短篇集に味のある作品が多いように思います。

 【2000年文庫化[潮漫画文庫(『天花粉―坂田靖子セレクション (1) 』)]】

《読書MEMO》 
・「天花粉」...「コミックトム」(1985年11月号) ★★★★

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