【1139】 ○ 手塚 治虫 『人間昆虫記 (1972/05 虫プロ商事・COMコミックス増刊) ★★★★

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主人公を通して滲む時代風刺、創作者の虚無と苦悩、作者の「少女」性への愛着。

「十村十枝子」.jpg人間昆虫記.jpg  人間昆虫記  手塚治虫.jpg  人間昆虫記 大都社1986.jpg 
『人間昆虫記』 (COMコミックス増刊)['72年]/『人間昆虫記 (ハードコミックス)』['86年]/『人間昆虫記 (ハードコミックス)』 ['87年新装版]

人間昆虫記 プレイコミック.jpg 新進作家・十村十枝子の芥川賞の授賞式の日、別の場所で臼場かげりという女が自殺するが、臼場かげりと十枝子はかつて一緒に暮らしていたことがあり、十枝子が受賞した小説は、臼場かげりが書こうとしていた作品の盗作だった。
 十村十枝子は、以前は劇団の花形女優であり、その後グラフィックデザインで世界的な賞を獲っているが、実は彼女は、次々と才能のある人間に接近してはその才能を吸い取り、作品を盗んでは成長していく寄生昆虫のような女だった―。

 '70(昭和45)年5月から翌年にかけて秋田書店の「プレイコミック」('70年5月9日号〜'71年2月13日号)に連載された作品で、前年発表の『IL』と同じく、手塚作品では少数派の成人向けコミックであり、また、どちらかと言うと女性が主人公の作品は「少女」が主人公であることが多い手塚作品の中では、成人女性が主人公であるという点でも珍しい作品ではないでしょうか。

 この作品は第1に、十村十枝子という女性の鮮やかとも言えるほどの徹底したマキャベリスト的生き方を描いたピカレスク・ロマンであり、一方で、彼女は埋まることのない虚無感を常に抱いているわけで、高度成長期の日本の経済至上主義的な時代の空気(登場人物の名前が皆、昆虫をもじったものになっている)と、その裏側にある人々のいくら豊かになっても何となく満ち足りない気分や閉塞感を、旨く風刺的にこの十枝子という女性に託しているように思いました。

 第2に、この十枝子という女性は、芸術家と交際すればその芸術家が生み出す作品を自分で本人よりも先に生み出してしまうわけで、但し、彼女自身の中身は空っぽであり、(作中に連載中に自決した三島由紀夫がちらっと出てくるが)彼女は言わば"芸術作品至上主義者"であり、創作(模倣)に励めば励むほど彼女の自我は希薄になっていくという、これはある意味、作品を量産することを常に求められていた作者も含めた、創作者の虚無と苦悩の想いが込められているような気がしました。

 第3に、成人女性を主人公としたこの作品には、一見すると作者の成人女性に対する潜在的な恐怖心が現れているともとれるものの、十枝子という女性は見かけ上は成熟した大人の女性でありながら、その内面においては亡き母親の蝋人形を作ってそれに甘える「女の子」であり、その点においてはこれもまた「少女」的女性、大人になりきらない女性を主人公にした作品であると言え、手塚作品の主流を外れてはいないような気がし、またそこに、主人公に対する作者の愛着が感じられるように思いました。

『人間昆虫記』より
人間昆虫記 手塚.jpg

ドラマ人間昆虫記.jpgWOWOW・ミッドナイト☆ドラマ「人間昆虫記」2011年7月31日~9月11日[全7話]出演:美波/ARATA/久世星佳/鶴見辰吾/手塚とおる/、滝藤賢一/北村有起哉/中村敦夫/白石和彌/高橋泉

人間昆虫記 wide.jpg【1972年コミックス版[COMコミックス]/1974年コミックス版・1987年新装版[大都社(ハードコミックス)]/1979年文庫化[秋田漫画文庫(全2巻)]/1983年全集[講談社(全2巻)]/1995年再文庫化[秋田文庫(The best story by Osamu Tezuka)]/2007年コミックス版[秋田トップコミックスW]/2012年再文庫化[講談社・手塚治虫文庫全集]】

人間昆虫記 (秋田トップコミックスW)』['07年]

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This page contains a single entry by wada published on 2009年4月 5日 23:36.

【1138】 ○ 三田 紀房 『ドラゴン桜 (全21巻)』 (2003/10 講談社・モーニングKC) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【1140】 ○ 坂田 靖子 『天花粉』 (1986/08 潮出版社・希望コミックス) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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