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「実験」が主なのか、エンタテインメントが主なのか、どっちでもいいのかも知れないが...。
『君が代は千代に八千代に』 文春文庫 『一億三千万人のための小説教室』 岩波新書
エロ・グロ・ナンセンス満載の13篇で、特に冒頭の「Mama told me」などは、初めての人には抵抗があるかも知れませんが、ある程度"高橋ワールド"に馴染んでいる読者には、「やり過ぎかな」という感じもややあるものの、ほぼ予定調和の範囲内ではないでしょうか。
気になったのは、同時期に『一億三千万人のための小説教室』('02年/岩波新書)を上梓しており、その中で「波乱万丈のストーリー」小説というものに否定的な立場であったように思うのですが、「実験小説」群とも思えるこれらの(何れも文芸誌「文學界」にて発表された)作品の中に、結構ストーリー的に面白いものがあり、「チェンジ」などは自分でもいけると思ったのか連作になっていたりすることで、「実験」が主なのか、エンタテインメントが主なのか、よくわからない。
『博士の愛した数式』('03年/新潮社)に先駆けて「素数」や「オイラーの公式」を取り上げていたり、『蛇にピアス』('04年/新潮社)に先駆けてスプリット・タンをモチーフにするなど才気煥発、「Mama told me」のファンキーなリズムは詩人・谷川俊太郎が褒めているし、その他にも会話文を多くして難読漢字を使用しないなど、全作を通じての周到な計算も窺えます。
「実験」が主なのか、エンタテインメントが主なのか、はたまた"別の意図"があるのか、あまりこだわらなくてもいいのかも知れないけれど(筒井康隆の初期作品にも、これらが混在していたわけだし)、この人、サービス精神が旺盛すぎるのかも。
"別の意図"があるとすれば、「この日本という国に生きねばならぬ人たちについて書く」(文庫版自著解説)ということでしょうが、本書に関して言えば、その意気込みはやや空転している印象を受けました。
他の作家もそうですが、初期のいい作品がどんどん絶版になっている(または書店で入手しにくくなっている)のが可哀想...。
【2005年文庫化[文春文庫]】