「●た行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【595】 武田 百合子 『富士日記』
導入部分にはリアリティあり。だんだん技巧がアザトサにみえてくる。
『コンセント』 (2000/05 幻冬舎)
ある日、アパートの一室で腐乱死体となって発見された兄。兄はなぜ引きこもり、生きることをやめたのか。
兄の死臭を嗅いで依頼、自分の不思議な能力を自覚することになる主人公の朝倉ユキは、かつての指導教授であるカウンセラーのもとを訪ねる―。
著者の兄は実際に自殺したということで、導入部分での「現場」の描写や主人公の心理描写にはすごくリアリティを感じたし、葬儀社の人や清掃会社の人のなんだか割り切っているような話にも、「ああ、現実こうなんだろうな」と思わせるものがありました。
中盤のカウンセリングの話も、それなりの知識と現実をベースに書かれているようで、かつての指導教授として登場する男についても、こんないい加減なカウンセラーが実際にいるのかどうかは知りませんが、物語としては許せる範囲内であり、個人的にはそこそこ面白かったのです。
しかし、話が次第にシャーマニズムやチャネリング的なものに向かうにつれて、タイトルの「コンセント」の意味が明らかになる一方、それまでのリアリティは急速に色褪せ、個人的な関心はどんどん薄れていったというのが正直なところです。
受ける人には受けるだろうけれど、キワモノ感は拭えず、読者受けを狙って施されたような技巧が、アザトサに見えてしまう部分がかなりあったように思いました。
【2001年文庫化[幻冬舎文庫]】