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30代女性と60代男性の恋愛? リアリティはあったように思うが、何を書きたかったのか?
『しょっぱいドライブ (文春文庫 (た58-2))』〔'06年〕 『しょっぱいドライブ』〔'03年〕
2002(平成14)年下半期・第128回「芥川賞」受賞作。
港町に暮らす34歳の独身女性「わたし」が、既婚60代男性の「九十九さん」とデートして同棲に至るまでの話に、「わたし」が以前に30歳にして初めて付き合った男性である小劇団を主宰する「遊さん」の話が挿入されています。
"へなちょこ"の痩せ老人「九十九さん」を筆頭に登場人物が地味で、なりゆきに任せているような生き方にもメリハリが無く、物語としても、クライマックスが意図的に回避されているかのようにだらだらと流れていく感じがしました。
村上龍に「私の元気を奪った」と評されたのも無理からぬところかと思いましたが、普通は小説の主人公などになり得ないような人たちを描いて、叙述を簡素化した性描写や男女の会話などにはかえってリアリティがあったように思えます(それなりに筆力はあるということか)。
30代女性と60代男性の恋愛?ということで、川上弘美の『センセイの鞄』('01年/平凡社)の裏バージョンみたいですが、この小説の主人公の方が覚めている感じ。
個人的には、冒頭のわたしと九十九さんの海辺のデート(ドライブ)から、ずっと昔の芥川賞作品『三匹の蟹』(大庭みな子)などを連想しました(舞台となった土地も状況設定も全然異なるが)。
でも、『センセイの鞄』ほどの「癒し感」も『三匹の蟹』ほどの「閉塞感」も、この小説は無いのではないだろうか。
「しょっぱい」と言うより「しょぼい」感じがしないでもない...。作品自体が。
何を書きたかったのかよくわからないまま、 九十九さんの「幻想」とわたしの「打算」のギャップだけが結構心に引っ掛かる...。
登場人物に対する作者の悪意のようなものさえ感じられその中に「わたし」も含まれている、しいて言えばそれが「しょっぱい」感じかなあ。
【2006年文庫化[文春文庫]】