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「ドリトル先生」に夢中だった少女が進化生物学の第一人者になるまで。
『進化生物学への道―ドリトル先生から利己的遺伝子へ (グーテンベルクの森)』 〔'06年〕
進化心理学や行動生態学の権威である著者が、自らの半生を綴ったエッセイで、研究の歩みを振り返るとともに、「人生の軌跡において重要な役割を果たした本」を紹介した「読書案内」にもなっています。
子どもの頃は「図鑑」の愛読者で、小学4年生で『ドリトル先生航海日誌』に夢中になり、そのときの好奇心や探究心を保ったまま学究の徒となり、紆余曲折、様々なフィールドワークや世界的な学者との交流を経て、進化生物学のフロントランナーとしての今に至るまでが、飾り気の無い語り口で書かれています。
前半では『ドリトル先生』の他に、ローレンツの『ソロモンの指環』、ジェイン・グドールの『森の隣人』などが紹介されていて、その後、ドーキンスの『利己的な遺伝子』に出会い、ダーウィンに回帰し、進化心理学、しいては総合人間科学を自らのテーマとする―そうした過程を振り返りながらも、生態学、進化学の現時点的視座から、先人たちの研究や著作を冷静に検証していています。
2年半にわたるアフリカでの野生チンパンジーの観察の話や、「ハンディキャップ理論」(著者の本『クジャクの雄はなぜ美しい?』('92年出版・'05年改定版/紀伊國屋書店)に集約されている)、「ミーム論」に関する話などがわかりやすく盛り込まれていて、知的エッセンスに溢れる仕上がりになっています。
「群淘汰の誤り」というパラダイム変換が世界の学会に起きていたのに、東大の研究グループの中ではそんなことは知らずにいた著者が、たまたま来日した学者に『利己的な遺伝子』を読むことを勧められ、目からウロコの思いをしたという話は印象的でした。
しかし、この流行語にもなった「利己的遺伝子」の概念が、俗流の「トンデモ本」によって歪められ、多くの日本人は結局のところ、未だに「種の保存」論を信じていることを著者は指摘しています。