【360】 ○ 佐倉 統 『進化論という考えかた (2002/03 講談社現代新書) ★★★★ (○ 佐倉 統 『進化論の挑戦 (1997/11 角川選書) ★★★☆)

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進化論を使った知的冒険。進化論の歴史もわかりやすく解説されている。

進化論という考えかた3.JPG進化論という考えかた.jpg進化論という考えかた2.jpg 進化論の挑戦.jpg 佐倉 統.jpg 佐倉統 氏(略歴下記)
進化論という考えかた (講談社現代新書)』〔'02年〕『進化論の挑戦 (角川選書)』〔'97年〕 

 「進化論をおもしろく紹介するよりも、進化論を使って知的冒険を展開してみたかった」と後書きにあるように、人間がほかの動物から進化してきたという事実から「人間性」も進化したと考えるべきではないかとし、進化論の方法をキーに、人間の心(倫理観など)や行動、文化の生成の謎に迫ることができるのではという考えを示しています。

『進化論の挑戦』['97年/角川選書 '03年/角川ソフィア文庫]
『進化論の挑戦』('97年/角川選書.jpg進化論の挑戦2.jpg 著者は以前に、『進化論の挑戦』('97年/角川選書・'03年/角川ソフィア文庫)の中で、進化論の失敗を含めた歴史的背景を振り返り(例えば進化論が「優生思想」に形を歪められ、ヒトラーらの政治手段として利用されたようなケース)、既存の倫理観、宗教観、フェミニズム、心理学などの学問領域を進化論的側面から再検証した上で、新たな思想の足場となる生物学的な人間観を提示しようとしました。

 個人的には、人間の文化は、遺伝子には刻まれない情報ではあるが、集団的に受け継がれていくものであるという「ミーム論」的なニュアンスを感じましたが(著者は遺伝学的決定論には批判的である)、話の結論としては、哲学、心理学、社会学など個別の領域で行われてきた研究は、進化論の考え方を導入することで統合され飛躍的に発展するだろうということになっている印象を受けました。ただし、あまりに多くのことに触れている分、各分野については浅く(学術書ではなく啓蒙書であるからそれでいいのかも知れないが)、大枠では著者の主張はわかならいでもないまでも、もやっとした不透明感が残りました。
    
進化論という考えかた2897.JPG そうした著者の言説をわかりやすく噛み砕いたもの(元々そうした趣旨において書かれたもの)が本書『進化論という考えかた』('02年/講談社現代新書)であるとも言えますが、ただし、本書において具体的にそうした学問領域の間隙を埋める作業に入っているのではなく、むしろそうした作業をする場合に著者が自らに課す"心構え"のようなものを「センス・オブ・ワンダー」(自然への畏敬の念)という概念基準で示しています(この言葉はレイチェル・カーソンの著作名からとっているが、著者なりの言葉の使い方とみた方がよいのでは)。そして、この基準を満たさないものとして、竹内久美子氏の"俗流"進化生物学や澤口俊之氏の『平然と車内で化粧する脳』('00年/扶桑社)などを挙げて批判しています。

 本書の第1章では、進化論の歴史がわかりやすく解説されていて、入門書としても読めます。ここが、本書の最もお薦めのポイントで、後はどれだけ著者の「知的冒険」に付き合えるかで、本書に対する読者個々の相性や評価が決まってくるのではないでしょうか。

 進化学の手法が万能であるような楽観的すぎる印象も受けましたが、〈ミーム論〉は現時点では学問と言える体系を成していないとするなど、冷静な現状認識も見られ、今後注目してみたい学者の一人ではあると思えました。 
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佐倉 統
1960年生まれ。著書に 『現代思想としての環境問題』(中公新書)『進化論の挑戦』(角川書店)『生命の見方』(法藏館)など。専攻は進化生物学だが、科学史から先端科学技術論まで幅広く研究テーマを展開。横浜国立大学経営学部助教授。

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