【1558】 ○ おのき がく(文・絵) 『かたあしだちょうのエルフ (1970/10 ポプラ社) ★★★★

「●日本の絵本」 インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1559】 くすのき しげのり/石井 聖岳『おこだでませんように
「○現代日本の児童文学・日本の絵本 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

バオバブの樹になったダチョウの話。ある意味、大人の方がストレートに感動させれてしまう?

かたあしだちょうのエルフ1.jpgかたあしだちょうのエルフ (ポプラ社のよみきかせ大型絵本)』(1970/10 ポプラ社)

 アフリカの草原に住む雄のダチョウのエルフは動物の子供達に人気があり、エルフも動物の子供を背中に乗せて走るのを楽しみにしていた。ある日、子供達がライオンに襲われ、エルフはライオンと戦って子供達を守り抜くが、ライオンに片方の脚を食いちぎられる。仲間の動物達は、片脚を失い走れなくなったエルフを気遣って餌を運んでいたが、時が経つにつれその姿もまばらになり、エルフは次第に痩せ衰えていく。そんなある日、子供達が黒豹に襲われ、エルフは逃げ遅れた子供を背負い、最後の気力を振り絞って黒豹と戦う。戦いの後、エルフは片脚で草原に立ったまま、一本の木に姿を変えていた。以来、いつまでも子供たちを見守り、動物達はその姿を見るたびにエルフのことを思い出すのだった―。

夏木マリ 朗読.jpg影絵かたあしだちょうのエルフ.jpg 小野木学(おのぎ まなぶ/おのき がく、1924-1976/享年52)の1970(昭和45)年発表の作品で、ロングセラーとしてアニメにもなっているようですが、NHK教育テレビで観た「影絵版」が、原作絵本の版画のイメージに近くて良かったです(語りは声優の朴璐美(ぱくろみ)のものと女優の夏木マリのものがあるようだが、自分が観たのは夏木マリの方)。
ETV「こどもにんぎょう劇場・かたあしだちょうのエルフ」

かたあしだちょうのエルフ2.jpg 再読ですが、ストレートに感動させられました。作者が解説的なことを作品の中に織り込んでいないため、いろいろな捉え方ができる作品でもあり、そこがまたいい点なのかも。

 例えば、若い頃から会社で骨身を削って仕事し、また会社に対して大きな貢献もしたのに、今はその会社によって窓際に追いやられ、誰からも敬われている気配はない―そんなお父さんが読むと、しんみりしてしまうかも。

 逆に、この作品を読んだ子供の中には、エルフのヒロイックな活躍に憧れる一方で、獰猛さを剥き出しにしたライオンや豹の絵や、「木になってしまう」というエルフの"死に方"に、やや引いてしまう子もいるようです。

 個人的には、五木寛之氏が『人間の覚悟』('08年/新潮新書)の中で「善意は伝わらないと覚悟する」「人生は不合理だと覚悟する」と書いていたのを思い出しました(五木氏は同書で、「ボランティアは石もて追われよ」とも書いている」)。

 但し、物語の中のエルフが涙したのは、誰からも振り返られなくなったからと言うより、自分がコミュニティに対して貢献できなくなったこと自体が悲しかったのでしょう。
バオバブ.jpg それ(コミュニティに対する貢献)が、エルフ自身にとっての自己実現であったわけで、そうした意味では、悲しい結末ではあるものの、最後にエルフは再度、自己実現を果たしたとも言えるのではないかと思います。

 本職は洋版画家である作者は、地理書でアフリカの草原に屹立するバオバブの樹の写真を見ている時に、突然、頭の中で映写機が逆回りするかのように、この物語を着想したとのこと、それから「逆回転フィルムを正常に巻き戻すのに8ヵ月かかって」、ようやくこの物語を完成させたとのことです。

 確かに、バオバブの樹の中には、ダチョウっぽく見えるものがあり、また実際、この樹はアフリカでは、「人々の暮らししを守る樹」とされているようです。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1