【876】 ◎ 笠原 嘉 『軽症うつ病―「ゆううつ」の精神病理』 (1996/02 講談社現代新書) ★★★★☆

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用語の適用は変遷しているが、メンタルヘルス担当者が今読んでも、参考となる点は多い。

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軽症うつ病―「ゆううつ」の精神病理 (講談社現代新書)』['96年]笠原 嘉 氏

退却神経症.jpg 著者は、日本で最初に「軽症うつ」という概念を提唱した人で(「うつ」と紛らわしい「退却神経症」というものを概念として提唱したのも著者)、本書では、人に気づかれにくい、また、自分でも気づきにくいタイプのうつ病である「軽症うつ」ついて、とりわけ、ひとりでに起こる「内因性うつ」について、患者サイドに立って、わかりやすく解説しています。

 但し、本書で取り上げられている「軽症うつ」は、最近では、「大うつ病」(狭義の「うつ病」)以外のうつ病として「気分変調症」と呼ばれているようで、それでは「軽症うつ」という言葉が使われていないかというと、ある時は、「大うつ病」と「気分変調症」以外の病的なうつ状態を指す言葉として、またある時は、「大うつ病」以外の病的なうつ状態(「気分変調症」含む)を指す言葉として使われているようで、ややこしい。
 更に、「内因性うつ」と「心因性うつ」を無理に区別しようとしないのも最近のトレンドのようです(本書でも、ある出来事が引き金となって「内因性うつ」が発症することがあることを事例で示している)。

 少し古い本だけに、こうした用語の適用の変遷には一応の注意を払わねばならないという面はありますが、「ゆううつ」の要素として、「ゆううつ感」のほかに「不安・いらいら」「おっくう感」をあげ、回復期において「おっくう感」が一番最後まで残り、仕事などに復帰しても何故かヤル気が出ないことがあるといった指摘は鋭いです。

 職場のメンタルヘルス対策として、復帰者の受け入れ体性をつくる際に、原則として今までの職場に復帰させ、ならし出勤からスタートするといった、最近、人事関係の専門誌によく書かれていることが、すでに本書では提唱されているなどはさすがであり、その他にも、うつ病が何事も几帳面にやり遂げないと気がすまない「執着性格」と相関が高いことや、回復期に「三寒四温」的な気分変調が見られることなど、職場のメンタルヘルス(保健推進)担当者などが今読んでも、参考になることが多いと思われます。

《読書MEMO》
●急性期治療の七原則(149p)
(1) 治療対象となる「不調」であって、単なる「気の緩み」や「怠け」でないことを告げる。
(2) できることなら、早い時期に心理的休息をとるほうが立ち直りやすいことを告げる。
(3) 予想される治癒の時点を告げる。
(4) 治療の間、自己破壊的な行動をしないと約束する。
(5) 治療中、症状に一進一退のあることを繰り返し告げる。
(6) 人生にかかわる大決断は治療終了まで延期するようアドバイスする。
(7) 服薬の重要性、服薬で生じるかもしれない副作用について告げる。

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