【382】 ◎ 笠原 嘉 『退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服』 (1988/05 講談社現代新書) ★★★★☆

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企業などでメンタルヘルスを担当されている方には参考になると思える。

退却神経症 無気力・無関心・無快楽の克服/笠原嘉1.jpg退却神経症.jpg  笠原 嘉.gif 笠原 嘉(よみし) 氏(略歴下記)
退却神経症―無気力・無関心・無快楽の克服』 講談社現代新書〔'88年〕 

 いるいる、こんな人、これぞまさに著者の言う「退却神経症」ではないかと思い当るフシがありました。
 休みがちなのに、出社したときの仕事ぶりはしっかりしていたりして...。でも結局しばらくするとまた休むようになってしまうのですね(ただし休職届け添付の医師の診断書は「自律神経失調症」とか「うつ病」となっていることが多いのですが)。 

 「退却神経症」とは著者の考えた言葉であり、'70年安保の大学紛争の頃に、学生運動もせずに密かに社会の前線から退却して沈潜する「大学生特有の無気力」現象が見られ、そうした現象が青年期をこえたサラリ-マンの間にも「出勤拒否症」などとして拡がっている事態を意識したのが始まりだということで、これは、最近の社会現象として言われている「ひきこもり」に通じるところがあるかと思えます。 

 著者が関心を持ったのは、例えば「欠勤多発症」の青年は、職場を離れていればまったく元気であったりすることが多いということで、「会社を休むくせに、休日の運動会や小旅行は目立ってハッスルすることがある」といった点などです。 

 こうした人たちは、アブセンティーズム(欠勤症)やアパシー(無気力)状態になる前は、真面目で物事にキッチリした性格だった人が多く、また現在は、自分でもよくわからない漠然とした不安を心の内に抱えていて、それでいて、不眠に陥るでなく(むしろ過眠症だったりする)、他人の助けも求めない(この辺りが、不眠を伴うことが多く、他者に助けを求めることも多い「うつ病」とは異なる)、それでいて突然の失踪や自殺という最悪の結果に至ることがあるということです。 

退却神経症 無気力・無関心・無快楽の克服/笠原嘉2.jpg 著者は、大学生の「スチューデン・アパシー」現象について書かれた海外の論文を見つけたことから、これらが大学紛争の際の一時的現象ではなく、その後も続いている現象であると考え、これを「退却神経症」という新しいタイプのノイローゼと位置づけて、うつ病やパーソナリティ障害との比較をしています。

 学生の「五月病」なども、この「退却神経症」の系譜として捉えると確かにわかりやすいです。 
 さらには、中・高校生の「登校拒否」にも同様のアパシー症候群が見られるとし、こうした症状の治療と予防について、教育制度の問題も含め提案しています。
  
 提言部分についてはそれほど頁を割けないまま終わっている感じがありますが、「ひきこもり」や「登校拒否」の問題に対し、いち早く慧眼を示した本であり、この1冊に偏りすぎるのはどうかと思いますが、企業などでメンタルヘルスを担当されている方には参考になるかと思います。
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笠原 嘉(かさはら・よみし).名古屋大学名誉教授
1928年 神戸市に生れる。
1952年 京都大学医学部卒業。精神医学専攻。
1972年 名古屋大学教授就任
1992年 名古屋大学教授退官
名古屋大学医学部教授、同付属病院長などを経て、現在、藤田保健衛生大学医学部客員教授。社団法人被害者サポートセンターあいち元会長、現顧問。
中井久夫や木村敏と並んで著名な精神科医。スチューデント・アパシー student apathy や退却神経症などを提唱。

《読書MEMO》
●不安ノイローゼ・強迫ノイローゼ・ヒステリー型ノイローゼ+「退却神経症」(=新しいタイプのノイローゼ)
●うつ病の人は寮にいても苦しい、退却神経症の人は、会社を休むくせに、休日の運動会や小旅行は目立ってハッスルする(28p)
●休みがちなのに、出社したときの仕事ぶりはしっかりしている(28p)
●完全主義。プライドが高く、人に容易に心を開かない(48p)

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