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「人望」を得ようとするその「心根」が部下に嫌われるのではないだろうか。
『「人望」とはスキルである』 カッパ・ブックス 〔'03年〕
「人望=スキル」であるならば、人事考課の要素に「人望」というものがあってもおかしくないでしょう。測定可能なはずだから。実際には測定困難であるにしても、業績評価は別として、管理職登用に際して「品格」や「識見」を考課要素に入れている企業はあります。いわゆるヒューマン・スキルの1つとして。ただし、習熟やトレーニングによって高められるのは、「品格」や「識見」であって、「人望」はそれに付随するものであるはず(ただし、両者の間に不確定要素がいっぱい入るわけだが)。そうすると「人望=スキル」というのは、かなりユニークな論ではないか―。
そう思って本書を手にしたところ、何のことはない、「人望」は「スキル」で磨くことができるということを言っているに過ぎないことがすぐにわかりました。先に述べた理由により、「人望」というより「品格」や「識見」といった言葉の方が正しい使い方になるのではないかと思いますが、ただ、それでは訴求力が弱いから、「人望」としたのでしょう。
内容的には、上司が部下を「ほめる」「しかる」「動かす」「励ます」といった際の基本的なテクニックを説いたコーチングの本と言えるかと思いますが、ケーススタディごとにわかりやすく解説されていて、実際この本は結構売れたようです。
しかし、とり上げられている事例があまりにパターン化されたもので、部下に対するお気楽な性善説的見方は、現場を外からしか見ることがない「心理屋さん」のものという気がしました。コーチング・テキストとしても組織心理学の本としてもやや底が浅く、いわゆる「ビジネス一般書」レベルだと感じました。まあ、"大衆の欲望に根ざした「新しい知性」"を標榜する「カッパ・ブックス」であるということもありますが。
とにかく、部下は、組織目標に向かって自分が働きやすくしてくれる上司についていくのであって、上司本人が「人望」を得るためにする行為については、その「心根」を嫌うのが普通ではないかと思うのですが、最初の用語の定義でひかかってしまった自分の読み方が、やや斜に構えたものになってしまったのかも知れません。
【2007年文庫化〔 ソフトバンク文庫〕】