【3161】 ○ 篠田 節子 『田舎のポルシェ (2021/04 文藝春秋) ★★★★

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男性が主人公のものは侘しさがあり、女性が主人公のものの方に「強さ」を感じた。

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田舎のポルシェ

 "今どきの人生"を感じさせるロードノベル3編を収録。収録短篇は、いずれも「オール讀物」に初出掲載されたもの。「田舎のポルシェ」は2020年9・10月合併号に、「ボルボ」は2020年2月号に、「ロケバスアリア」は2021年1月号に、それぞれ掲載された作品です。

「田舎のポルシェ」... 実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍だったが―。

「ボルボ」... 不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったが―。

「ロケバスアリア」...「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。70歳を迎えたおかんである私の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る―。

 「田舎のポルシェ」は、軽トラになぜか米を満載にして東京から岐阜に向かう話(都会から地方へ行くということで、最初は状況が掴みにくかった)。農家の事情や登場人物の家族、生い立ち、行く手に立ちはだかる台風などの諸要素がにうまく組み合わせられていて、手練れの技という感じ。文芸評論家の斎藤美奈子氏と書評ライターの細貝さやか氏の対談で「アラフィー女性に読んで欲しい本」の1冊として挙げられていたように思いますが、作者の「女たちのジハード」系の作品とも言えるかも。

 「ボルボ」は、大企業を辞めた60代の男同士が知り合うのってこんな感じかなあと。主人公が長年頑張ってきたボルボに自分を重ねているのがよく分かって切なかったです。自分も、車で北海道に行ったとき、八戸から苫小牧行きのフェリーニに乗ったので懐かしかったです(1等がとれず、2等を予約して乗船してから1等のキャンセルをゲットした)。でも、なんで斎藤氏はわざわざ妻の仕事場へ行ったんだろなあ。

 「ロケバスアリア」の主人公は孫の運転で浜松のホールへ行くわけで、それはホールで歌うという彼女の秘めた決意があるため。この決意の意味が最後に読者に分かるようになっているのがミソで、書評ライターの細貝さやか氏も、生きる尊さを感じさせる中編で、主人公のコロナ禍の決意に勇気をもらったとしてました。やっぱりラストが効いているかな。

 3編ともロードノベルであるという共通点と併せて、いずれも、単なる運転手で主人公とはまったくの他人同士であったり、元は主人公とは他人同士だったのが最近付き合い始め、今回初めて一緒に旅行する関係だったり、古希の主人公とかつて引き取る機会があった孫だったり、これも主人公にとってはまったくの他人の録音ディレクターだったり――といった主人公と"他者"との関係性がモチーフになっている点が同じで、その両者の距離感が、物語の始まりと終わりで変化している(より密になっている)と言えるかと思います。

 そうした関係性の変化を描くことで、人生というものを炙り出しているところがうまいなあと。男性が主人公の「ボルボ」は侘しさがあり、女性が主人公のものの方に「強さ」を感じられた点は、やはり作者らしいのかも。

【2023年文庫化[文春文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2022年6月11日 02:13.

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【3162】 ◎ 米澤 穂信 『黒牢城』 (2021/06 KADOKAWA) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

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