【3019】 ○ ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 「息子のまなざし」 (02年/ベルギー・仏) (2003/12 ビターズ・エンド) ★★★★

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「人を受け入れることから、愛が生まれる。」―罪を犯した者を赦せるかがテーマ。

息子のまなざし 2002.jpg息子のまなざし 00.jpg 息子のまなざし 01.jpg
息子のまなざし [DVD]」オリヴィエ・グルメ
息子のまなざし  1.jpg息子のまなざし  2.jpg 職業訓練所で働くオリヴィエ(オリヴィエ・グルメ)は、自身が受け持つ木工クラスにある日一人の少年フランシス(モルガン・マリンヌ)が新しく入ってくる。フランシスの顔にハッとしたオリヴィエは仕事を終えた後、離婚した元妻マガリ(イザベラ・スパール)に会って「"あの少年"が訓練所の生徒としてやって来た」と話す。5年前オリヴィエと元妻は、まだ子供だったフランシスに幼い息子を殺されており、少年院を出た彼は指導員が被害者の父親とは知らずに訓練所に訪れたのだった。オリヴィエは元妻の「彼に関わらない方がいい」との意見も聞かず、訓練所で他の少年たちと同じく彼にも木工技術を教え始める。フランシスが息子を殺した状況や動機を知りたくなるオリヴィエだが、とりあえず作業の様子や帰りに一緒に食事をするなどして彼の現在の様子をうかがう。フランシスに事件当時の話をそれとなく聞くことを決めたオリヴィエは、「木の種類を覚えるための勉強」と称してクルマで2人きりで製材所に材木を買いに行くことに。翌日その車中フランシスの方から数年前に盗みなどをして少年院に入ったことを打ち明けた後、オリヴィエに後見人になってくれるよう持ちかける。これに乗じてオリ息子のまなざし  3.jpgヴィエは盗みの話を詳しく聞くと、フランシスは「クルマからカーラジオを盗もうとしたら後部座席にいた子供に見つかり、もみ合ってる内に殺してしまった」と告白する。オリヴィエは息子が殺された当時の話にショックを受けながらも、製材所に着いた後フランシスと必要な材木の長さを計測して持ち帰る作業にかかる。しかしオリヴィエが「お前が殺したのは俺の息子だ」と真実を告げた途端、フランシスが高く積まれた材木置き場に身を隠してしまう。材木の上に登ったフランシスは棒きれをオリヴィエに投げつけて抵抗するが、その後興奮状態で少年を捕まえたオリヴィエは彼の上にまたがり首に両手をかける―。

LE FILS 2002 in Cannes.jpg ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の2002年の作品で、同年のカンヌ国際映画祭「主演男優賞」(オリヴィエ・グルメ(左写真中央))受賞作。日本公開時のキャッチコピーは「人を受け入れることから、愛が生まれる。」で、まさに「赦し」をテーマにした映画でした。

Cannes film festival 2002 - Morgan Marinne/Jean-Pierre Dardenne/Olivier Gourmet/Luc Dardenne/Isabella Soupart

息子のまなざし 7.jpg オリヴィエ・グルメは演じる、職業訓練所の木工クラスの指導員で、生徒たちから先生と呼ばれている、その名もオリヴィエがいいです。あまり感情を表に出すことがなく、いつもぶっきらぼうなものの言い方で、自宅のイスを使って腹筋を鍛えるのが日課。仕事柄5ⅿ程度までの距離なら目視で長さを言い当てることができるというまさに職人。心の中では過去に息子を殺してしまったフランシスに怒りの感情を抱きながらも、表向きはただの先生と生徒として交流を続けますが、そのことで元妻からは尋常ではないと批判されます。

The Son (2002) -.jpg オリヴィエ自身も、最初から確信をもって彼のことを赦すつもりだったようには見えず、どうして、またどうやって彼が息子を殺害したのか知りたい、彼の口から聞きたいという気持ちから、彼を生徒として受け入れたように見えますが、愛情に恵まれない生活を送ってきたと思しき彼を見るうちに、次第に彼に愛情を抱くようになったように見えます。説明を排除したドキュメンタリー風のタッチで撮っているため(さらにはオリヴィエが感情をあまり表に出さないため)、観る側がそうとるしかないのですが...。

 罪を犯した者を許せるかがテーマの作品だと思いますが、それを被害者家族の立場から描き、"果たして人間は最も憎いと思われる人間を受け入れることが出来るのか?"という問いになっているのがポイントです。

 例えば、日本は死刑制度の存置国ですが、欧州先進諸国では死刑制度を残している国はもうありません。死刑制度の意義について、「再犯防止」「犯罪抑止」「遺族感情」などが挙がりますが、犯人による再犯防止は本来なら"更生"させる努力をすべきであり、更生しなければその間は社会から隔離すればよいのであって、また、犯罪全般の抑止効果については、「死刑が他の刑罰に比べて効果的に犯罪を抑止する」という確実な証明は国内でも海外でもなされていません。となると、あと一つは、死刑が廃止されては被害者や遺族の感情が納得いかないという「遺族感情」の問題が残るだけで、実際、同程度の重さの犯罪であっても、被害者や遺族の処罰感情の強弱の違いで刑罰の重さが変わってくるということがあるのが、日本の裁判制度の実態です。

 しかし、犯罪者が死刑になったところで被害者や遺族の感情が癒えるかというと、"処罰感情"という感情の端的な部分においては解消されるにしても、気持ち全体として何か救われるといったことは無かったというのが、大方の被害者や遺族の意識のようです。そう考えると、重罪人に対して死刑を科すのはやむ得ないとし、死刑制度の存置を支持する世論が8割を占めるのが日本の現状ですが、罪を犯した者を許せるかどうかということをもっと考える方向に行くべきではないかと個人的には思います。

 話が死刑制度の方に行ってしまいました。フランシスはまだ16歳の少年であり、映画そのものは、貧困社会と少年犯罪の関係や、いったん犯罪を犯した者の社会復帰の難しさなど様々な社会的問題を内包していますが、"赦し"ということに関して、ちょっとそんなことも考えさせられた作品でした。

息子のまなざし (2002) モルガン・マリンヌ/イザベラ・スパール/オリヴィエ・グルメ
息子のまなざし (2002).jpgLE FILS 2002 Isabella Soupart.jpg「息子のまなざし」●原題:LE FILS●制作年:2002年●制作国:ベルギー・フランス●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●撮影:アラン・マルクーン●時間:103分●出演:オリヴィエ・グルメ/モルガン・マリンヌ/イザベラ・スパール/レミー・ルノー/ナッシム・ハッサイー/クヴァン・ルロワ/フェリシャン・ピッツェール/アネット・クロッセ/ファビアン・マルネット/ジミー・ドゥルーフ/アンヌ・ジェラール●日本公開:2003/12●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-10-07)(評価:★★★★)

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