【2667】 ◎ 廣石 忠司 『会話でマスター 人事の仕事と法律 (2017/04 中央経済社) ★★★★★

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初任または若手の人事部員にお薦めだが、上司が読んでもいい。

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会話でマスター 人事の仕事と法律』(2017/04 中央経済社)

 本書は、初めて人事労務に携わる人や初めて人事労務を学ぶ人のために、人事労務のアウトラインを会話形式で示したものです。舞台は化学品メーカーで、主要な登場人物は、新卒入社して支社で3年間営業に携わった後に新たに本社の人事部に配属になった若手社員と、2年前まで人事部長を務め今は役職定年で専任部長になっている人事一筋35年のベテランの2人で、ベテラン専任部長が人事部1年生に定期的な会話の場を通して(時に居酒屋で)、人事労務や労働法についてレクチャーするという形式をとっています。

 かつて経営団体に勤務し、現在は大学で教鞭を執る著者は、1つの人事労務の問題に対して常に経営的側面と労働法的側面から検討する必要性を感じていたとのことで、その両者を一冊にまとめた書物がなく、著者自身が以前にそうした本を著したものの、それはあくまで学生向けのものであったため、この度、初任実務者にとっても参考になる本を刊行することを狙いとして、本書を著したとのことです。

 全30講+補講から成り、前20講が「人事労務編」、後10講「法律編」となっています。「人事労務編」では、人事労務の目指すものは何かということから始まって、募集・採用、異動・配置、人事考課、教育・訓練、昇進・昇格、定年・退職・解雇、懲戒、賃金、賞与・退職金、福利厚生、労働時間、労働組合などを扱っています。特に労働組合関連に7講を費やして丁寧に解説しています。後半の「法律編」では、労働法の体系から入って、労働基準法、労働契約法、労働組合法、雇用機会均等法・育介法などを扱い、人事労務に関係する法律の主要なものは押さえていると言えるかと思います。

 全体を人事編、労務編と分けるのでなく、前20講の「人事労務編」の中で、必ずしも答えは1つとは限らないマネジメントの問題も扱えば、法律で決まりごととして定められている労働法の問題も扱っていて、それが自然な流れとして感じられ、改めてこの両者が密接な関係にあり、不可分なものであることを感じました。その上で、それらとは別に、体系的に解説した方が分かりやすい法律のポイントを、後半部の10講で、これも会話形式ですっきりまとめています。

 網羅している範囲は広いですが、全体を通して会話形式であるため分かりやすく、また時に新人と専任部長のユーモラスなやりとりもあって読みやすいです。基本的には入門書ですが、最近の人事とそれを取り巻く環境の変化や今後の課題なども織り込まれていて、内容的には密度が濃いように思いました。

 人事マネジメントや人事の制度等については、概ねオーソドドックスなことが語られたりスタンダードなものが紹介されたりしていますが、外資系の会社ではまた違ってくるといった話があったりし、また、専任部長の言葉を借りて著者の考え方が示されている箇所もあるように思いました。

 読み手の側からすれば、「ウチの会社はちょっと違うな」と思われる部分もあるかもしれませんが、それはあって当然ではないかと思います。初任または若手の人事部員に本書を読んでもらい、どの点が納得でき、どの点がすんなり飲み込めなかったかを話し合ってみるのも良いかと思います。そのためには上司も本書を読まなければなりませんが、人事・労務の基本をおさらいするとともに、自社の人事マネジメントや人事制度を一般の会社のそれらと比較した場合の相対的位置づけを探るという意味では、いずれの職層の人事パーソンにとっても読む価値があるのではないかと思います。

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