【2656】 ○ 酒井 崇男 『「タレント」の時代―世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』 (2015/02 講談社現代新書) ★★★☆

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「タレント」とはどういう人たちなのかを説明した部分が興味深かった。

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「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論 (講談社現代新書)』['15年]

 本書の著者は、タレントマネジメント分野の人材コンサルタントとして、日本の優秀な技術者が「ものづくり敗戦」の過程でリストラされる場面を散々見てきたとのことです。著者は、日本企業の多くは「タレントを生かす仕組み」を持たずにここまできてしまったとし、今日の変化と競争の激しい時代におけるタレントマネジメントの重要性とその在り方を、本書では掘り下げています。

 3部構成の第1部では、日本企業がおよび日本がうまくいかなくなっている現状の分析を通して、ものつくりやサービスにおいて人々が求めるものがどう作りだされるのかを解説し、そこにおいては設計情報の質が決定的に重要であり、設計情報を作っていく過程で中心的な役割となる優れた人材、すなわち「タレント」が重要になるとしています。そのことを受け、第2部で、タレントとはどういう人たちなのかを説明し、さらに第3部では、タレントを生かす仕組みについて解説しています。

 著者は、優秀な人材を集めても利益に結びつけられず、グローバル競争に敗れた日本企業に対し、「売れないモノを高品質に作り上げたのでは、はじめから終わっている」として、自身の属したことのある通信業界や、凋落を続ける電機産業が犯した誤りを分析し、市場の成熟化や、世の中の情報化・知識化・グローバル化といった流れの中で、そうしたトレンドを正しく読み取って今でも勝ち続けているトヨタと、負け続けている日本のエレクトロニクス産業、あるいはソニーの迷走とアップルの躍進といったように対比的に捉え、「タレントを生かす仕組み」のどこに違いがあったかを解説しています。

 第2部終わりから第3部にかけて、タレントとそれ以外の人の知の領域の違いを示し、タレントを生かすのが難しい理由として、B級人材はA級人材を評価できない、ゆえに採用しない、登用しない、排除する―といった悪循環の構図を分かりやすく解説しています。また、第3部にある、「リーン・スタートアップ」というシリコンバレー発として日本でも注目されている方法が、実は米国が日本企業(トヨタ)に学んだものだったといった話なども興味深いのですが、後半になるとこうした生産工学的な視点からの分析が多くなり、成功モデルとしてトヨタの「主査」制度に注目している点などもやや特定のケーススタディに寄った考察のように思えました。

 人事パーソンの読み処としては、第1部の現状分析と第3部の解決編の繋ぎの部分にあたる第2部での、タレントとはどういう人たちなのかを規定している箇所であるかもしれません。

 第2部で著者は、労働の内容別の賃金相場について、①知識を伴わない定型労働-時給1000円、②改善労働を伴う非定型労働-年収300万~500万円、③知識を伴う定型労働-年収400万~600万円、④複数分野の知識を伴う創造的知識労働-年収1000万~数億円とし、日本ではほとんどの公務員はハタラキに対して賃金が割高であるのに対し、年収的には3000万円~5000万円程度貰っていても不思議でないタレントが、年収600万円~1000万円くらいしか貰っていないとしています。

 それでは、タレントとはどういう人たちなのか―著者によれば、タレントとプロフェッショナルやスペシャリストの違いは、「知識あり・定型労働、既知の事柄を確実にこなす」のがプロフェッショナルであり、「知識あり・定型労働、特定分野の知識に詳しい専門家」スぺシャリストであるのに対し、「複数分野の知識あり、創造的知識労働、目的的・改革・改善・地頭・洞察・未知を既知に変える能力」タレントであるとのこと、単なるスペシャリストは、知識を活用する「目的」よりも「知識そのもの」にアイデンティティを持っている人が多く、プロフェッショナルも同様であるのに対し、優れたタレントは、知識にせよ職業にせよ、「目的」を達成するための「手段」だと考えているところに、際立った特徴があり、そのため、タレントは目的的に知識を獲得し、獲得した知識を手段として使うとしています。

 Amazon,comでの本書の評価は高いようですが、どちらかというと、第1部と第3部はケーススタディ的な要素のウェイトが高く、本書の繋ぎにあたる第2部が、ある意味で最もコンセプチュアルで且つすっきりした(個人的に腑に落ちるといった)論考がなされているように思いました。

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