【2497】 △ 湊 かなえ 『リバース (2015/05 講談社) ★★★

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読者を驚かせたいという意図とそのための創意は分かるが、それがどこまで果たせたのか疑問。

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リバース』(2015/05 講談社) 2017年ドラマ化(「TBS金曜ドラマ」) 2018年文庫化リバース (講談社文庫)

 深瀬和久は大学4年の夏、ゼミ仲間4人と連れ立って旅行に出かけた。その旅路で、和久が唯一気を許していた友人が不慮の死を遂げた。それから3年、今の深瀬は、事務機会社に勤めるしがないサラリーマン。今までの人生でも、取り立てて目立つこともなく、趣味と呼べるようなものもそう多くはないが、敢えていうのであればコーヒーを飲むこと。そんな深瀬が、今、唯一落ち着ける場所が〈クローバー・コーヒー〉というコーヒー豆専門店だ。深瀬は毎日のようにここに来ている。ある日、深瀬がいつも座る席に、見知らぬ女性が座っていた。彼女は、近所のパン屋で働く越智美穂子という女性だった。その後もしばしばここで会い、やがて二人は付き合うことになる。そろそろ関係を深めようと思っていた矢先、二人の関係に大きな亀裂が入ってしまう。美穂子に『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が入った手紙が送りつけられたのだ―。

 第37回「吉川英治文学新人賞」の候補作となった作品。導入部分はなかなか良かったけれども、主人公である深瀬和久に届けられたのと同様の手紙は、深瀬和久と同じゼミ生だった村井隆明、浅見康介、谷原康生にも届けられており、彼らは全員、亡くなった広沢由樹の死に関わっていた―って、ここまで読んで、これもまた1つのパターンではないかなあと。あまり新鮮さを感じないままに読んでいたら、最後に意外な事実が明らかになり、ああ、これが作者の狙いだったのかと。旧友を訪ねつつ、犯人(脅迫者)探しの形をとりながら、実は最後、自分の記憶の中に真相への糸口があったわけでした(記憶を辿るから「リバース」なのか)。

 でも、作者の読者を驚かせたいという意図とそのための創意は分かるももの、それがどこまで果たせたのか疑問に思いました。「吉川英治文学新人賞」の選考で、選考委員の大沢在昌氏が「素材の小ささが最後まで気になった」「主人公たちのもとに届く、人殺しだという告発文にも首を傾げざるをえない。的はずれと思う人間もいるのではないか」とコメントしたように、起きた事件と復讐のバランスがとれていないような気もしました。同じ同賞選考委員の伊集院静氏に至っては、「この作品を候補作にしたことに疑問を抱いた」とまで言っています。

 この作者には珍しく男性が主人公であり、だからと言って心理描写等がそう不自然であったりはしないのですが、亡くなった広沢を含めゼミ仲間4人のキャラクターが今一つ見えにくいというのも難点としてありました。久しぶりにこの人の作品を読んだけれど、イマイチといった印象。多くのファンがいて、いつか直木賞を獲る作家なんだろうけれど、もうちょっとかかるのか。

【2017年文庫化[講談社文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2016年12月22日 23:37.

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