【2472】 ○ 萩原 遼 「おもかげの街 (1942/11 東宝映画) ★★★☆

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人情物で夫婦愛物。長谷川・入江・山根の演技がしっかりしていて、特に長谷川一夫がいい。

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「おもかげの街」VHS  長谷川一夫

おもかげの街3.JPG 大坂本町の呉服問屋河内屋の使用人・佐七(長谷川一夫)は真面目な働き者で、河内屋では一人娘・お美代(山根寿子)の許婚で番頭の萬吉(田中春男)が放蕩の末に店を出てしまっていたこともあり、佐七を見込んだ亡き先代が佐七に嫁・お千代(入江たか子)を取って佐七・お千代を夫婦養子にし、店を譲るという遺言を遺していた。佐七が養子になったことで、萬吉のひがみっぷりは度を増して彼は家に寄り付かなくなり、先代のおかみは萬吉とお美代を離縁させ、娘が産んだ子を養子の佐七とお千代の子とし、お美代を尼寺に預けてしまう。一方の萬吉はならず者の大助(清川荘司)の配下になってしまい、佐七の気は晴れない。実は佐七はかつて大助の兄貴分で、"とかげの千太"として江戸でその名を馳せた無頼者だった。自分の素性が露見することも構わず、佐七は懸命に萬吉の心を正そうとする中、お美代が尼寺を出て萬吉と行方不明になり、おかみはこのことで佐七に言われてお美代を慰めるため会いに行ったお千代を責める。さらに、先代の命日の法事の日、ならず者の大助が店にやって来て、過去をネタに佐七を強請る―。

 1942(昭和17)年11月公開の萩原遼(1910-1976)監督による東宝動画の時代劇作品。萩原遼は、1930年代に山中貞雄を中心とする時代劇づくりで注目された創作集団"鳴滝組"のメンバーで、山中貞雄監督の「丹下左膳余話 百萬両の壺」('35年/日活)でチーフ助監督に付いていますが、その山中貞雄は、この作品の4年前、1938(昭和13)年9月に戦死しています。この映画のチラシで萩原遼は、"故山中貞雄の高弟"と謳われています。

 長谷川一夫(1908-1984/享年76)は、山本嘉次郎監督の「藤十郎の恋」('38年/東宝映画)で入江たか子とは共演済みで、この作品では、それに当時売出し中の山根寿子が加わっていますが、当時のチラシには「繪姿のような長谷川・入江・山根のほっとするような美しさ!!」とあります("はっとする"ではないのか?)。

 人情物、夫婦愛物であるためストーリーは定番ですが、中心人物3人を演じる長谷川・入江・山根の演技がしっかりしていて、今観ても充分に引き込まれるものがあります。特に、長谷川一夫の、関西弁を話す実直な使用人・佐七が、強請りに来た大助(清川荘司)に対して最初はこれまでの流れと同様、ゆったりとした関西弁での"ビジネス・トーク"のトーンで対応しながらも、相手が引き下がらないとなると一転して江戸弁でバシッと啖呵を切るシーンが良かったです。長谷川一夫はかつて林長丸時代に歌舞伎の女形で人気を博しましたが、前半から中盤にかけての物腰の柔らかな演技はその系譜とも言え、そうした抑制された演技が効いて、終盤のかつての兄貴分の本領を発揮したこのシーンが際立って見えます。

 入江たか子(1911-1995/享年83)は、後に「化け猫女優」として知られるようになる女優ですが、この頃は別に眉も剃っておらず、華族出身らしい美貌と気品を兼ね備えた美人という感じでしょうか(でも何となく"怪猫女優"になりそうな兆しもある?)。当時、"怪猫女優"として鳴らしたのは、「怪談 有馬騒動」('37年/木藤茂監督)や森光子が出ていた「怪猫 謎の三味線」('38年/牛原虚彦監督)などに主演した妖艶なヴァンプ女優・鈴木澄子であり、入江たか子が「怪談 佐賀屋敷」('53年/荒川良平監督)や「怪猫 岡崎騒動」('54年/加戸敏監督)に出演し、当時まだ現役だった鈴木澄子と並んで"2大怪猫女優"とされるようになったのは昭和20年代終わり頃です。溝口健二監督の映画に出演中、監督に「そんな演技だから化け猫映画にしか出られなんだよ」とスタッフ一同の面前で罵倒されるいじめに遭ったとされ、映画界から身を引いていましたが、「椿三十郎」('62年/黒澤明監督)、「病院坂の首縊りの家」('79年/市川崑)、「時をかける少女」('83年/大林宣彦)などに、それぞれ監督に請われて出演しています。

 山根寿子(1921-1990/享年69)は、この映画では身勝手な夫の振る舞いに苦しむ耐えるしかないお嬢さんといった役柄で夫婦役の長谷川・入江の脇に回った感じですが、「蛇姫様」('40年/衣笠貞之助監督)で長谷川一夫の相手役(準主役級)を務めて10代で人気スターとなり、この「おもかげの街」以降も「今日は踊って」('47年/渡辺邦男監督)で長谷川一夫の相手役(主役級)を務めるなどしています。その後「西鶴一代女」('52年/溝口健二監督)などにも出ていますが、'54年にプロデューサーの小川吉衛と結婚し、その後は殆ど映画には出なかったようです。

長谷川一夫「おもかげの街」という映画も武生でロケ0.jpg 大坂の呉服問屋街の様子をはじめ、当時の風俗が丁寧に描かれているように思いました(但し、江戸時代が時代背景であるためか、一部は福井県の武生市(現・越前市)でロケしたようだ)。こうした丁寧な背景の描き方は、戦後の「小早川(こはやかわ)家の秋」('61年/小津安二郎)での京都の造り酒屋の描かれ方などを想起させられるものがありました。

「おもかげの街」●制作年:1942年●監督:萩原遼●脚本:八住利雄●撮影:安本淳●音楽:鈴木静一●時間:109分●出演:長谷川一夫/入江たか子/山根寿子/田中春男/清川荘司/藤間房子/花岡菊子/阪東橋之介/田中筆子/汐見洋●公開:1942/11●配給:東宝映画(評価:★★★☆)

「シネマポスター展Ⅱ」(2010年8月・越前市)

「おもかげの街」2.jpg

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This page contains a single entry by wada published on 2016年11月 2日 23:13.

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