【2157】 × エドワード・セジウィック 「キートンのエキストラ (Free and Easy)」 (30年/米) (1930/12 MGM日本支社) ★★

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キートンの初トーキー。彼は頑張っているが、その使われ方や脚本の方に問題あり。

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 カンザス州の田舎町に住むブランケット夫人(トリクシー・フリガンザ)は、娘のエルヴィラ(アニタ・ペイジ)が町内の美人コンテストに優勝したのを契機に、彼女を映画スターに仕立てようとマネージャーのエルマー(バスター・キートン)を連れ立ってハリウッドに乗りこむ。エルマーの不注意で、彼らはハリウッドの人気二枚目俳優のラリー(ロバート・モンゴメリー)の座席に座ってしまう。エルヴィラの美しさに心を奪われたラリーは彼女を援助することを約束するのだが、彼女に無体を働いたとキートンのエキストラ 舞台1.jpgころをエルマーが連れてきたブランケット夫人に見咎められ、母と娘の信頼を失ってしまう。エルマーは当初ラリーを良く思っていなかったが、ラリーが自分と同郷であることを知って互いに親しくなる。エルヴィラを売り込むために撮影現場に潜り込み、エキストラとして何度も失敗を繰り返していたエルマーだったが、ひょんなことからキートンのエキストラ 02.jpgコメディアンとしての成功の糸口を掴むことになり、コメディ・ミュージカルでエキストラに抜擢されたブランケット夫人と共演することになる。一方、将来を悲観するエルヴィラに、エルマーは自らの彼女を愛する想いを伝えようと「貴女と結婚したがっている人がいる」と示唆するが、運命の悪戯によりエルヴィラはそれがエルマーだと思い込み、二人は結ばれエルマーは失恋する―。

 バスター・キートン主演の1930年の作品で、MGM移籍後に撮ったキートンの初トーキー作品(監督はエドワード・セジウィック)。キートンはトーキーの時代についていけなくてダメになったとよく言われますが、彼自身は早くからトーキーに参入したがっていて(本当は前作「キートンの結婚狂」('29年)からトーキーで撮りたがっていたとのこと)、この作品「キートンのエキストラ」では彼の声が初めて聴けるだけでなく、演技面でも頑張っている感じです。

 但し、前作「キートンの結婚狂」の前半と"エキストラ"ネタが被りつつ、キートンの使われ方が前作よりも出演者の一人に過ぎないようになっており、ずーっとキートンが常に真ん中に在るそれまでのキートン作品を見続けてきたファンにはかなり物足りなかったのではないでしょうか。ギャグもどこかやらされている感じがあって、キートン独特の切れ味に乏しかったりします。

キートンのエキストラ 門.jpg また、ストーリーが、"トーキーに乗り込んだ"彼を"ハリウッドに乗り込んだ"エルマーに重ねているのはいいのだけれど、ラストで映画では成功するが、恋愛の方は失恋してしまうという結末はいかがなものかと...。これまでカラッと乾いた笑いと(とりわけ恋愛において)ハッピーエンドのコメディが定番だっただけに、あまりウェットなのはこの人には似合わない気がします。

キートンのエキストラ 舞台2.jpg キートンは頑張っているだけなく、声も良くて台詞もメリハリがあり、トーキーの世界でも十分にイケル感じなのですが、その使われ方や脚本の方にキートンの魅力を引き出そうにも引き出せない問題があって、こうしたことがますますキートンを追い込んでいったのだろうなあと思わせるものがあり、トーキー時代に入ってからのキートンの退潮はMGMの責任だという印象を改めて抱かされました。

 そう思って観ると、終盤の「劇中劇」的なコメディ・ミュージカルの中でのキートンの「やらされてる感のある」ギャグ・シーンや吊るされているだけのアクションなども、映画作りの日進月歩のシステム化に翻弄されるキートン自身を象徴している感じがし、また、その中での役柄としての道化師がキートンの置かれている状況と重なる部分もあって、観ていて辛い感じもします。

キートンのエキストラ 03.jpg ミュージカル・シーンは「劇中劇」であることを利用して顔の"白塗り"を復活させたりしていますが、ギャグがキートンのギャグではなく、演出家による振付けの一部になっているという感じで、"白塗り"も「ストーン・フェイス」ではなく予め悲哀を表す眉線が入っていたりして、わざわざ白塗りにしたのに却ってキートンらしくなくなっている感じです。「道化の悲哀」というのも、キートンのそれまでの、最後振り返ってみれば実にスマートだったというスタイルとは異質であり、個人的にはイマイチの作品でした(いや、イマニかイマサンくらいか)。

 ⅯGM映画「ベン・ハー」('26年)のフレッド・ニブロ監督が、キートンが演じる"にわかコメディアン"エルマーの演技にダメ出しをする「ニブロ監督」役で出演しています。「キートンの恋愛三代記」('23年)のチャリオットレースのシーンなどは、当時最大の映画会社パラマウントの大作主義に対する批判が込められていたと言われていますが、自身が同じく大手のMGMに移って、フレッド・ニブロ監督の指示で動く役を演じているのもどことなく寂しくて笑えません。

Buster Keaton and Anita Page in "Free and Easy" (1930) 
キートンのエキストラ 01.jpgキートンのエキストラ オールドポスター.jpg「キートンのエキストラ」●原題:FREE AND EASY●制作年:1930年●制作国:アメリカ●監督:エドワード・セジウィック●脚本:ポール・ディッキー●撮影:レナード・スミス●原作:リチャード・スカイヤー●時間:92分●出演:バスター・キートン/アニタ・ペイジ/トリクシー・フリガンザ/ロバート・モンゴメリー/フレッド・ニブロ/エドガー・ダーリング/グウェン・リー/ジョン・ミルジャン/ライオネル・バリモア/ウィリアム・ヘインズ/ウィリアム・コリアー・シニア●日本公開:1930/12●配給:MGM日本支社(評価:★★)

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