【2111】 △ 宮部 みゆき 『ソロモンの偽証 第Ⅲ部 法廷 (2012/10 新潮社) ★★☆

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ただただスッキリしないまま終わったという印象。

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ソロモンの偽証 第III部 法廷』(2012/10 新潮社)『ソロモンの偽証 全6巻 新潮文庫 [Jan 01, 2014]

ソロモンの偽証_0181.JPG 8月15日。遂に開廷日となり、5日間にわたる裁判が始まった。柏木卓也の家族、警察、不明だった告発状の差出人をはじめとする様々な証人が登場し、事件の謎の解明は二転三転する。同時に、生前の柏木卓也像がどんどん浮き彫りになる。しかし、最後の、あまりにも意外すぎる証人の登場に、法廷は震撼した。この裁判は仕組まれていたのか―。証人の口から明かされる前年のクリスマスイブの知られざる状況とは―(新潮社サイトより)

 丁寧に書かれて分、第Ⅲ部もすらすらとは読めましたが、個人的には、ラストで"おーっ"と唸らされるか、意外とがっくりさせられるか、という期待と懸念の入り交じった気持ちで読み進む中、最後は少なからず後者の方が的中してしまったという印象でした。

 結局、この小説で一番"キャラ立ち"していたのは、本人自身は事件の真相を何も知らない三宅樹里だったかも。『名もなき毒』('06年/幻冬舎)に出てきた、他人を傷つけずにはおれない女性・原田いずみが、事件の本筋には関係ないのに一番目立っていたのを思い出しました。

 その三宅樹里の話を最後まで引っ張ったのは、彼女の偽証が、タイトルの「ソロモンの偽証」を指しているからなのでしょうか。それにしてはソロモンという賢者のイメージからは遠く、どうもスッキリしませんでした。そもそも、なぜ藤野涼子が、ウソだと分かっていて三宅樹里の話を正当化しようとしているのか、或いは、その証言に拠って立とうとしているのかが、自分にはよく分かりませんでした。

 タイトルに絡めたもう一つの読み方としては、大出俊次の弁護人となった他校生・神原和彦が証人の立場で語った話が(結局のところその内容がこの事件の謎解きとなっているわけだが)、それ自体 "偽証"である可能性も考えられるということでしょうか。それにしても、そもそも、最終的にその話をするならば、わざわざ大出俊次の「弁護人」を志願しなくとも、最初から「証人」になればいいのであって、それで大出俊次への容疑は晴れるわけだしなあ。

 深読みすれば、神原和彦が実は犯人で、「殺人」を「未必の故意」にすり替えるために、自らが最初から「証言」することを回避して、検察側に追及させることによって、作為的「真実」に辿り着かせる(ミスリードさせる)方法をとったのでしょうか。但し、必ずしもそうしたことを示唆するような作りにもなっていないし、やはりスッキリしません(むしろ、神原和彦の証言を皆が"素直に"「真実」と受け取った印象)。

 結局、芥川龍之介の「藪の中」(映画「羅生門」の原作)みたいな話だったということになるのかなあ。芥川の原作は、侍、妻、多襄丸の3人の内、誰が真実を語っているのかはまさに"藪の中"のまま終わるのに対し、黒澤明版は、侍(森雅之)、妻(京マチ子)、多襄丸(三船敏郎)の3人の証言の後、原作では冒頭で状況証拠しか語っていない杣売((そまふ)=木樵)(志村喬)を敢えてラストで再登場させて、真相はそうだったのかと思わせるようなことを喋らせているのだけれど(そのことにより古典を《現代的に翻案》し、且つ《原作より面白い作品》に仕上げているのが黒澤明のスゴイ点なのだが)、この『ソロモンの偽証』は、ただただスッキリしないまま終わったという印象でした。

【2014年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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This page contains a single entry by wada published on 2014年4月 1日 00:14.

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