【2091】 ○ アガサ・クリスティ (橋本福夫:訳) 『鳩のなかの猫 (1960/12 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★ (○ ジェームス・ケント 「名探偵ポワロ(第59話)/鳩のなかの猫」 (08年/英) (2010/09 NHK‐BS2) ★★★☆)

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ポアロが出てくるのは後の方だけれど、やはりポアロ物らしい傑作。

鳩のなかの猫 ポケミス.jpg 鳩のなかの猫 hm文庫.jpg 鳩のなかの猫 クリスティ文庫.png  鳩のなかの猫 dvd.jpg「名探偵ポワロ 41」
鳩のなかの猫 (1960年) (世界ミステリシリーズ)』『鳩のなかの猫 (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『鳩のなかの猫 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』「名探偵ポワロ ニュー・シーズン DVD-BOX 3」(2010)

 中東のラマット国での革命勃発当日、アリ・ユースフ国王は、自分が生き延びられなかった場合に備え、一族伝来の巨額の価値を持つ宝石を国外へ持ち出すよう、英国出身の親友ボブ・ローリンスンに託す。ボブは、自分は国王の国外脱出行に同行するため、別の誰かに宝石を託そうとするが、姉のジョアン・サットクリフが娘ジェニファーの肺炎の療養のため当地に滞在し、やがて英国へ戻ることになっているのに目をつける。そのジェニファーが通うロンドン郊外の名門女子校メドウバンクは、新たに夏季学期を迎えていたが、新任の体育教師が何者かに射殺されるという事件が起きる。その学校には、今学期からラマット国の国王の従妹であるシャイスタ王女が転入してきたところでもあった。莫大な価値を持つ消えた宝石の謎と、名門女子校で起きた体育教師殺害事件には何か関連があるのか―。

鳩のなかの猫 原著.jpg 1959年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で、原題「Cat among the Pigeons」は、女生徒(鳩)達の園である学園に殺人者(猫)が紛れ込んでいるという意。ポワロ物ですが、ポワロが登場するのは、メドウバンクの生徒で知人の娘であるジュリアが彼に相談を持ち込んできてからで、これが全体の3分の2を過ぎてからということもあって、今一つポワロ物という印象が薄かった作品でした(作家の浅暮三文氏もハヤカワ・クリスティー文庫の解説で、ポワロは「友情出演」の感が強いとしている)。でも今回読み直してみて、ラストの畳み掛け感は素晴らしく、やはりポワロ物らしい傑作ではないかと感じました。

Cat Among the Pigeons Dust-jacket illustration of the first UK edition

 冒頭の中東のラマット国での革命の話は、作者の政治的冒険譚風の初期作品の雰囲気もありますが、これはポアロ物では全33の長編の内の第28長編とのことで、かなり後の方。実は1958年に起きたイラン革命をモチーフにしているとのことで、その頃の作者は、遺跡の発掘作業のため毎年のようにイラクに赴いていた考古学者である夫に随行して当地を訪ねていたとのことです。また、メドウバンク校のモデルは、作者の娘が通っていた全寮制の女子予科校だそうです。そうしたこともあって作者にとっても愛着があるのか、この作品は作者の自選ベスト10にも入っています。

 第2の殺害事件が起き、ポワロが捜査に乗り出してからも第3の殺害事件が発生するなど、相変わらず殺人事件に"事欠かない"状況ですが、「3連続殺人」でしかも被害者は同じ学校の女教師ばかりというというのが、振り返れば、推理をミスリードさせる1つのポイントでした。ミステリ書評家の濱中利信氏は、この作品を傑作としながらも、物語の視点が一定していない、探偵役が不在である、犯人がアリバイ不在の状況の中で犯行を犯すとは考えにくい等ミステリとしての欠点も指摘しています。個人的にもその辺りが、星5つまでには至らない理由でしょうか。但し、中盤部分の探偵役は、ジェニファーとテニスラケットを交換したことから宝石の在り処に辿り着いたジュリアでしょう。

 嫌な人物も多く出ていますが、国王とボブの厚い信頼に基づく友情から始まって、国王が密かに結婚していた女性が、宝石の受け取りを拒否し、更に、その1つを、宝石の在り処を突き止めたジュリアに贈ることを言付けるなど、清廉な人物も登場し、読後感は悪くありません(メドウバンクの校長オノリア・バルストロードも立派な人物)。

鳩のなかの猫 ドラマ.jpg 英国LWT(London Weekend Television)制作・デヴィッド・スーシェ主演の「名探偵ポワロ」シリーズで、第59話(本国放映2008年)として映像化されていますが、ポワロがなかなか登場しないのではマズイと思ったのか、原作の冒頭にあるメドウバンクの新学期が始まる場面からポワロが登場します(引退を考えている校長オノリアが、自分の後継者の人選にあたり、人間洞察に優れたポワロの助言を求めたという設定。原作ではポアロは、女生徒ジュリアの母親を介して学園と繋がるが、校長のオノリアとは直接面識がなく、初めて会う直前はやや警戒気味。但し、会ってから後はオノリアの人格者ぶりに感心する)。

鳩のなかの猫 ドラマ2.jpg ポワロが女生徒らの只中にいたりする場面は原作には無く、また、第2の殺人事件の被害者ヴァンシッタートをカットし、被害者を別の人物に変更しています(但し、結末の整合性は保っている)。更には、宝石の1つがジュリアに贈られることになったエピローグで、ポアロがわざわざキャンディドロップに混ぜて、この中に1つだけ固いキャンディがある、なんて言って彼女に贈るのも、原作でのポワロの登場時間の少なさを補うTVドラマ版のオリジナル。但し、時間を遡ったりしてはいるけれども、大筋では原作のプロットに忠実であり、原作の持ち味は活かしていたと思います(「IMDb」のレーティングは8.0という高ポイント)。

鳩のなかの猫 dvd2.jpg「名探偵ポワロ(第59話)/鳩のなかの猫」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON11: CAT AMONG THE PIGEONS●制作年:2008年●制作国:イギリス●本国放映:2008/09/21●監督:ジェームス・ケント●脚本:マーク・ゲイティス●時間:94分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ) /ハリエット・ウォルター(バルストロード) /アマンダ・アビントン(ブレイク) /エリザベス・バーリントン(スプリンガー) /アダム・クローズデル(アダム) /ピッパ・ヘイウッド(アップジョン夫人) /アントン・レッサー(ケルシー警部) /ナターシャ・リトル(アン) /キャロル・マクレディ(ジョンスン) /ミランダ・レーゾン(ブランシュ) / クレア・スキナー(アイリーン) /スーザン・ウールドリッジ(チャドウィック) /ロイス・エドメット(ジュリア) /アマラ・カラン(シャイスタ王女) /ケイティ・ルング(スイ・タイ) /ジョー・ウッドコック(ジェニファー)●日本放映:2010/09/14●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)名探偵ポワロDVDコレクション 20号 (鳩のなかの猫) [分冊百科] (DVD付)

Épisode 5 鳩の中の猫.jpg鳩のなかの猫 フレンチ・ミステリ0.jpg 「クリスティのフレンチ・ミステリー(第5話)/鳩のなかの猫」 (10年/仏) ★★★

【1960年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(橋本福夫:訳)]/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(橋本福夫:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(橋本福夫:訳)]】

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