【2034】 ○ デヴィッド・グリンドリー 「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第11話)/ゼロ時間へ」 (07年/英) (2010/03 NHK-BS2) ★★★☆

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ミス・マープルの「割り込み感」が気になったが、基本的なプロット改変は思ったほどもない。

ゼロ時間へ dvd.jpg 第11話/ゼロ時間へ 00.png 第11話/ゼロ時間へ 01.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3

第11話/ゼロ時間へ 00.jpg 物語のプロローグで、ホームパーティの席上、犯罪学に関心を持つ高名な弁護士(元判事)トリーブス(トム・ベイカー)がミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に、殺人が起きたところから始まるというのは誤りであって、殺人は結果であり、物語はそのはるか以前から始まっていると語る。スケッチ旅行でソルトクリークを訪れ、当地のバル 第11話/ゼロ時間へ 04.jpgモラルコート・ホテルに滞在していたミス・マープルは、古い学友でソルトクリークにある大邸宅の女主人カミーラ(アイリーン・アトキンス)に、邸でのパーティに招待されていた。パーティには、カミーラの甥で有名プロZoe Tapper marple.jpgテニスプレーヤーのネヴィル・ストレンジ(グレッグ・ワイズ)とその現在の妻ケイ(ゾーイ・タッパー、ケイの男友達でマープルと同じホテルに泊まっているテディ・ラティマー(ポール・ニコルズ)、ネヴィルの元妻Saffron Burrows marple.jpgオードリー(サフラン・バローズと彼女が誘ったマラヤ帰りの従兄トーマス・ロイド(ジュリアン・サン第11話/ゼロ時間へ 02.jpgズ)、カミーラの亡夫の友人だったトリーブス元判事らが招待されていた。ケイは、パーティの招待客の中に夫の元妻オードリーがいるのが不満で、わざとテディと親密げに振る舞い、そのオードリーに好意を寄せるトーマス・ロイドはオードリーを気遣っていた。ホームパーティの場で、トリーブス元判事は、かつて子供が成した事故を装った計画殺人の話をし、形質学的な特徴は一生変わらないので、大人になったその人物にゼロ時間へ 3.jpg会えば今でも分かると話すが、その晩彼は、宿のエレベータが故障して階段を使おうとして心臓発作で亡くなる。ミス・マープルは彼の死が、事故ではなく計画殺人であると確信し、地元警察のSaffron Burrows marple 2.jpg警視に元判事が話した昔の犯罪話の人物を探すよう依頼するが、警視はミス・マープルの話にまともに取り合わない。そんな中、女主人カミーラが寝室で、ゴルフクラブで頭を強打された死体姿で発見され、明白な状況証拠から、テニス選手の甥ネヴィルが第一容疑者として浮かび上がる―。

ゼロ時間へ クリスティー文庫.jpg 2007年1月に本国イギリスに先行してカナダで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で(本国放映は2008年8月)、シーズン3の第3話(通算第11話)。日本ではNHK‐BS2で2010年3月25日に初放映。原作はアガサ・クリスティが1944年に発表した長編ミステリで(原題:Towards Zero)、作者自身がマイベスト10に選んでいて、日本の「クリスティー・ファンクラブ」の会員アンケートでもベスト10に入っている作品です。

 原作は、『チムニーズ館の秘密』や『殺人は容易だ』など全5作ある「バトル警視」物の中でもバトル警視が最も本領を発揮する作品ですが、この映像化作品としての「ゼロ時間へ」では、非マープル物にミス・マープルを登場させたこともあってか、バレット警視に置き代わっています(このシリーズの「チムニーズ館の秘密」もフィンチ警視に置き代わっているが、やはり「警部」ではなく、その上の「警視」をもってきていている)。

ゼロ時間へ 9.jpg プロテニス選手の甥とその新妻及び前妻、更にその2人の女性にそれぞれ恋心を抱く2人の男たちという嫉妬や恨みが渦巻く一触即発の雰囲気の中で事件は起きますが、原作の犯人は、意外だったと言うか、秘められた異常性を持つある種サイコパスでした。それに比べると、原作を読んで犯人の見当がついてしまっているのもありますが、やや最初から当該人物は怪しげだったかな。

「ゼロ時間へ」.jpg 実は原作で本当に事件解明に繋がる鋭い閃きを見せたのは、冒頭と最後の方にしか登場しない、たまたま当地に滞在していた自殺未遂の心の傷を克服しつつある男だったのですが、この人物はこの映像化作品には登場しません。代わりに、マープルと同じホテルに泊まっている犬を連れた少女が登場して、彼女の「ビリヤード場で腐った魚の匂いがした」との証言からマープルは犯人の確証を得ます。

 しかし、あくまでも状況証拠なので、最後は犯人にカマをかけて、犯人の自分は完全犯罪を成し得る人物だという自尊心を逆手にとって自白を導き出しますが、この辺りは原作と同じか。但し、そこに至るまでに、バレット警視の協力のもと、関係者全員を船に乗せて、船上でポワロ風に謎解きをやるのは、元々非マープル物とは言え、原作とかなり趣きが違います。

 このシリーズ、結構、原作には無いポワロ風の「一同集めての」謎解きが見られますが、まあ、この方が映像的に見栄えがするのでしょうか。ただ、船縁に乗っかって脚をぶらぶらさせているテディ・ラティマーをいきなり海に突き落としたのは、ちょっとやり過ぎの印象も受けました。全体を通してミス・マープルの「割り込み感」が気になる映像化作品でしたが、原作がよく出来ていて、基本的なプロット改変は思ったほど多くなかったこともあり、楽しめました。

ゼロ時間へ 4jpg.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第11話)/ゼロ時間へ」●原題:TOWARDS ZERO, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:デヴィッド・グリンドリー●脚本:ケヴィン・エリオット●原作:アガサ・クリスティ「ゼロ時間へ」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ジュリアン・サンズ/ゾーイ・タッパー/ポール・ニコルズ/グレッグ・ワイズ/サフラン・バローズ/ジュリー・グレアム/トム・ベイカー/アイリーン・アトキンス/アラン・デービス●日本放送:2010/03/25●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

Saffron Burrows(元妻オードリー)         Zoe Tapper(現妻ケイ)
Saffron Burrows.jpgゾーイ・タッパー.jpg

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