【2006】 ○ アガサ・クリスティ (田村隆一:訳) 『邪悪の家』 (1959/08 ハヤカワ・ミステリ) 《(真崎義博:訳) 『邪悪の家』 (2011/01 早川書房・クリスティー文庫)》 ★★★★ (○ レニー・ライ 「名探偵ポワロ(第11話)/エンドハウスの怪事件」 (90年/英) (1990/08 NHK) ★★★☆)

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どんな状況においてもポアロは名探偵であるという思い込みがトラップになっているとも言える?

邪悪の家 1959 ハヤカワ 田村.jpg エンドハウスの怪事件 創元推理文庫.jpg 邪悪の家 クリスティー文庫 旧田村訳.jpg 邪悪の家 クリスティー文庫 新訳.jpg エンドハウスの怪事件 dvd.jpg
邪悪の家 (1959年) (世界ミステリーシリーズ)』(田村隆一:訳)『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['04年](厚木 淳:訳)『邪悪の家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['04年](田村隆一:訳)『邪悪の家(ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』['11年](真崎義博:訳、カバーイラスト:和田誠)「名探偵ポワロ[完全版]Vol.6 [DVD]
[下]『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['75年](厚木 淳:訳)『邪悪の家 (1984年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』['84年](田村隆一:訳、カバーイラスト:真鍋博)『エンド・ハウス殺人事件 (新潮文庫)』['88年](中村妙子:訳)
エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫).JPG「邪悪の家」ハヤカワ・ミステリ文庫.jpgエンド・ハウス殺人事件.jpg 英国南部の牧歌的な漁村セント・ルーにバカンスで来ていたポワロとヘイスティングスは、滞在先のマジェスティックホテルで、近くにあるエンドハウスの女主人ニック・バックリーと知り合う。彼女は最近3日間に3回も命拾いをする経験をしたと話すが、ポワロとホテルのテラスで話している間にも、何者かから狙撃される。弾は逸れ、またも彼女の命は救われるが、ポワロは彼女に警告を発し、自ら警護を申し出てエンドハウスへと乗り込む。しかし、花火の夜に、偶然ニックのショールを羽織っていたニックの従妹のマギーが何者かによって射殺されてしまう―。

Peril At End House.jpg 1932年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポワロシリーズの長編第6作で(原題:Peril at End House)、『牧師館の殺人』(1930)、『シタフォードの秘密』(1931)に続く「館物」でもあり、タイトルの邦訳は、ハヤカワ・ミステリ文庫・クリスティー文庫(共に田村隆一:訳、クリスティー文庫新訳版は真崎義博:訳)では「邪悪の家」ですが、創元推理文庫(厚木淳:訳)では「エンド・ハウスの怪事件」、新潮文庫(中村妙子:訳)では「エンド・ハウス殺人事件」などとなっています。

First Edition Cover 1932(Collins Crime Club (London))

 クリスティの脂が乗り切った時の作品でありながら意外と評価が高くないのは、クリスティ自身が、「私の小説の中ではまるで印象が残っていないし、書いた記憶さえ思い出せない」と発言していることもありますが、ポワロが事件の謎に翻弄され続ける状況が続き、いつもの精彩を欠いているように見えるから、というのもあるのでしょう。ポワロのファンにはいただけない作品かも。

 確かに屋敷に出入りする関係者には一様に怪しい点があり、いつも通り容疑者の数には事欠かないのですが、その中に犯人がいるはずだと推理するポワロに対し、ある程度のミステリ通は、ポワロより先に犯人が判ってしまうのかも。但し、自分が初読の際は全く真犯人が判らず、その分、ドンデン返しも含んだ最後の謎解きはストレートに楽しめました。

PERIL AT END HOUSE f.jpg 犯人がポワロの謎解きをミスリードさせる張本人である作品ですが、ポワロに対する読者の、彼がどんな状況においても超人的な名探偵であるという思い込みがある種トラップになっている作品とも言え、そう言えばこの作品はポワロとヘイスティングスとの謎解きを巡る会話が多く、振り返ってみれば、2人して読者をミスリードする役割を果たしていた感じもします。

PERIL AT END HOUSE Fontana1975 (Cover illus.Tom Adams)

 2011年にクリスティー文庫が田村隆一(1923-1998)の旧訳を改版して真崎義博氏による新訳版を刊行しましたが、現代風で、それでいてジュニア版みたいな翻訳にはなっておらず、これはこれで良かったのでないでしょうか。

 田村隆一訳との違いの一つとして、ポワロがヘイスティングスと話す際に、例えば田村訳では「わが友(モナミ)、あなたのは受け売りですよ」となっているのが、真崎訳では「君の言っていることは受け売りだよ」というように、ポワロとヘイスティングスの距離感が近くなっているように思いました(特にこの作品は2人の会話が多いため、それを強く感じた)。

熊倉一雄 ポワロ.jpgエンドハウスの怪事件 0.jpg デヴィッド・スーシェ(David Suchet)の主演TⅤ版(London Weekend Television)「名探偵ポワロ」でも、吹替えの熊倉一雄(1917-2015)の独特の声の抑揚のもと、ポワロはヘイスティングスに対しても「です・ます調」で語りかけ、それが固定的イメージになっていますが、考えてみれば、ポワロがヘイスティングスに対して「です・ます調」で話すのは、あくまでも翻訳者の選択であると言えるのでないかと思います。

エンドハウスの怪事件00.jpg そのデヴィッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」ですが、英国LWT(London Weekend Television)が主体となって制作、1989年1月放映分から2014年1月放映予定分まで70作品作られており、この『邪悪の家』は、第2シーズン第1話(通算第11話)「エンドハウスの怪事件」として、1990年1月にシリーズ初の拡大版(ロング・バージョン)で放映されました。日本でも1990年8月11日、NHKがこのシリーズの放映を始めた年に放映されており、このシリーズで最初に観たポワロ物がコレという人も多いのではないかと思われます。

エンドハウスの怪事件03.jpg ほぼ原作に忠実に作られていますが、田舎に来て、誰も自分が有名な探偵であることを知らないことに不満なポワロのご機嫌斜めぶりが強調されているのが可笑しいです。それと、原作には出てこないミス・レモンが登場し、謎解きのヒントはヘイスティングスと彼女の言葉遊び的な遣り取りから生まれることになっています。更に、ラストのポワロが仕組んだ降霊会で、無理やり霊能力者の役割を演じさせられるのは、原作ではヘイスティングスのところが、この映像化作品ではミス・レモンになっています。

 海岸沿いの丘の上にあるホテルが美しく、推理と併せてリゾートの雰囲気が楽しめるのがいいです(ポワロがホテルのレストランで注文した2つのゆで卵の大きさが違うから食べられないと駄々をこねるところは、まるで「名探偵モンク」みたい。こういう完璧主義が探偵に共通する気質なのか)。

Poirot Polly Walker1.jpgPoirot Polly Walker2.jpg「名探偵ポワロ(第11話)/エンドハウスの怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT II:PERIL AT END HOUSE●制作年:1990年●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/07●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ポリー・ウォーカー(ニック・バックリー) /ジョン・ハーディング/ジェレミー・ヤング/メアリー・カニンガム/ポール・ジェフリー/アリソン・スターリング/クリストファー・ベインズ/キャロル・マクレディ/エリザベス・ダウンズ●日本放映:1990/08/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)

名探偵ポワロ.jpg2名探偵ポワロ.jpg「名探偵ポアロ」 Agatha Christie: Poirot (英国グラナダ(ITV)1989~) ○日本での放映チャネル:NHK→NHK-BS2→NHK-BSプレミアム(1990~)/ミステリチャンネル→AXNミステリー

【1959年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳)]/1975年文庫化[創元推理文庫(厚木淳:訳『エンド・ハウスの怪事件』)/1984年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳)]/1988年再文庫化[新潮文庫エンド・ハウスの怪事件 カバー.JPG(中村妙子:訳『エンド・ハウス殺人事件』)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳)]/2011年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(真崎義博:訳)]】

『エンド・ハウスの怪事件 (創元推理文庫)』['75年]初版本

デヴォンシャーの自宅のクリスタル夫妻

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熊倉一雄 (俳優、声優、演出家)2015年10月12日午後3時24分、直腸がんのため、東京都内の病院で死去。88歳。

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