【1887】 ○ 溝上 憲文 『非情の常時リストラ (2013/05 文春新書) ★★★☆

「●労働経済・労働問題」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2221】 小倉 一哉 『「正社員」の研究
「●リストラクチャリング」の インデックッスへ 「●文春新書」の インデックッスへ

一般向けとしては纏まっているが、人事部目線だと常識の範囲内? タイトルがちょっと...。

非情の常時リストラ.jpg非情の常時リストラ~1.JPG非情の常時リストラ (文春新書 916)

 ソニー2000人、パナソニック3500人、シャープ3000人、NEC2400人―2012年度にリストラを行った大手電機メーカーとその人員削減人数だそうで、ソニーはグループ企業も含めると1万人に及ぶそうです。

 長年にわたり日本企業の人事部を取材してきたジャーナリストで、人事専門誌等ではお馴染みの著者が、日本の雇用・解雇の現況をレポートしたもので、第1章の「『常時リストラ』時代に突入」では、今や企業は競争に打ち勝つためには何時でもリストラを行う心づもりが準備がされていることを示しています。

 実際に企業はどのようにしてリストラを行うのか、最近の情勢を、解雇マニュアルの実態やリストラ計画の発案から発表までの根回し、対象となる社員の選別方法など、事例を交えて伝えており、一般のビジネスパーソンには生々しく感じられるかもしれません。

 但し、企業内で人事に携わっている人から見れば、「希望退職」と併せて退職勧奨を行うのは常套法であり、「希望退職」を募る前にすでに辞めさせたい標的人材は絞られているとか、担当者には、労務トラブルに発展しないようにしつつ面談者をどう退職に導くかが入念に書かれたマニュアルが配られているとかいうのも、まあ、「希望退職」を実施する際の常識と言えば常識かも。

 むしろ、そうしたことがマニュアル化・常態化されているというのが本書の主題なのでしょう。最近では、景気や会社の経営状況に関係なく、新聞の話題にも上らないような小規模のリストラを「常時」少しずつやっているケースなども増えているそうですが、外資系企業などはこの手ものが以前から多いように思います(ある日、何の前触れもなく、個別に耳打ちされるとか...)。

 「追い出し部屋」や「座敷牢」なども今に始まったことではないけれど、確かに解雇規制が厳しいとされる日本企業(外資系企業の日本法人を含む)において発展してきた手法ではあるかも。でも、中小・零細企業では、そんなの面倒とばかり、能力不足や態度不良を理由に簡単に解雇してしまっているけどね。

 第2章「学歴はどこまで有効か」では、「新卒一括採用方式」に崩壊が見られる一方で、学歴不問を掲げながらも実は学歴重視はまだ根強い傾向としてあることなどを、第3章「富裕社員と貧困社員」では、同じ企業に勤める人の給与格差が大きくなってきていることなどを、第4章「選別される社員」では、ポスト不足に伴い"無役社員"が増えてきていることなどを、第5章「解雇規制緩和への流れ」では、安倍政権の下での"産業競争力会議"や"規制改革会議"の動向を踏まえつつ、解雇規制緩和が進むとすれば、それはどのような形で行われ、働く側にとってはどのような影響があるかを見通しています。

 労働市場の現況を踏まえつつ、企業の現場に密着したレポートになっており、そうしたものを概観するにはいいですが、1冊の新書にこれだけ盛り込むと、1つ1つが浅くなって、週刊誌記事を纏め読みしているような印象も(手軽と言えば手軽なのだが)。

溝上 憲文 『非情の常時リストラ』.jpg タイトルの「非情の常時リストラ」に直接呼応しているのは第1章のみでしょうか。これ、編集者がつけたタイトルなんだろなあ。内容を読めば、必ずしも"煽り気味"のタイトルではないということになるのかもしれないけれど、"非情の"はねえ(天知茂の「非情のライセンス」からきているとの説もあるが、あの番組を熱心に見ていた世代というのは、もう定年再雇用期に入っているか、その雇用契約も終わってリタイアしている世代がメインではないか)。

 本書の内容を包括するようなタイトルはなかなかつけるのが難しく、また、それでは本が売れないことからこうした1点に絞ったタイトルになったと思われますが、その分、本書全体の内容との間ではズレがあるようにも思いました(先に読んだ岩崎日出俊氏の『65歳定年制の罠』(ベスト新書)も、読んでみたら"定年起業"がメインテーマだった。最近、こういうことが多い)。

 本書は、労働ジャーナリストらが選ぶ「2013年度日本労働ペンクラブ賞」を受賞しました。

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1