【1884】 ○ 日沖 健 『変革するマネジメント―戦略的人的資源管理』 (2012/10 千倉書房) ★★★★

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管理職研修のテキストを読んでいるような印象だが、テキストとしてはよく纏まっている。

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                     日沖 健.jpg 日沖 健 氏
変革するマネジメント - 戦略的人的資源管理』 (2012/10 千倉書房)

 本書は、企業内における人材マネジメントの主役はマネジャーであるとの考えのもとに、企業内の組織や職場のマネジャー、およびその役割・ポジションを目指す中堅・若手社員を対象に、人材マネジメントの基本理論と実践技法を解説したものです。

 人材マネジメントを学ぶ教材については、学者が人事部門担当者向けに書いた理論書・専門書や、コンサルタントや人事部門OBなど実務家が体験談と経験則を紹介したものが主で、理論と実務をバランス良く融合したテキストが少ないというのが、本書執筆の動機であるとのことです。

 著者自身の経歴は、企業内で実務を経験した後にコンサルタントに転じ、産業能率大学などで講師も務めてきたと人であるとのことですが、戦略的人的資源管理(SHRM)について、組織論から人事制度の設計と運用、マネジャーの職場集団や部下への働きかけの技法まで、ひととおり広く網羅され、分かりやすく解説されているように思いました。

 「組織管理の5原則」から始まって、官僚制組織や機能別組織などの組織構造の類型など組織の構造とそのプロセス、組織文化の形成と変革などについて解説し、人材ポートフォリオを念頭に置いた人材育成やキャリア支援、定年再雇用制度と高齢者雇用、早期退職制度とリテンション施策、人事評価と目標管理などの基本ポイント、賃金制度とその動向などについて述べ、さらに、リーダーシップ理論やコミュニケーション理論、モチベーション理論などの主だったものを紹介しています。

 文中に多くの経営書から引いて、先人たちが提唱した様々な理論が紹介されています。そうすると何だか「理論」解説ばかりのようにも思えますが、各章の冒頭に企業組織内あるいはマネジャー個人について発生した課題をケーススタディ的に取り上げており(この辺りは企業出身者ならでは?)、以降に述べる理論が実務と深く結びついていることを示唆しています。

 個人名で刊行されたハードカバー本で、タイトルからして何か奇抜な提案でもあるのかと思いましたが、思いのほかに堅いというか、オーソドックス且つリジッドな内容であり、管理職研修のテキストを読んでいるような印象も受けました。

 ただし、テキストとしてはよく纏まっているのではないでしょうか。クルト・レヴィンの「良い理論ほど実践的なものはない」という言葉が紹介されていますが、まさにその言葉に沿って書かれている本である思います。

 全体としてはやはり理論中心という印象は否めませんが、場当たり的に自己啓発書や実務書などを読むよりは、先に理論や体系を押さえてしまった方が、何かと効率がいいように個人的にも思います。リーダーシップ理論などはその典型ではないかと。

 トップマネジャーにより求められるのはコンセプチュアルスキルである、という概念図が本書にも出てきますが、結局コンセプチュアルスキルとは、単に概念を概念として理解する能力を指すのではなく、事象を抽象化して理論に結び付け、また、理論を敷衍化して事象に結びつける、そうした理論と事象の間を行き来できる能力のことなのだろうなあと、こうした本を読んで改めて思った次第。

 人事部の人にとっては、管理職研修などにおける押さえるべきポイントをオーソドックスに網羅した本であるとともに、自身の「おさらい」本でもあるということになるのではないでしょうか。

【2017年第2版】

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This page contains a single entry by wada published on 2013年5月17日 23:57.

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