【1806】 ○ 伊藤 彦造 『伊藤彦造 イラストレーション [新装・増補版]』 (2006/06 河出書房新社) ★★★★

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構成のダイナミズムと細部の描写の精緻さ、湧き上がってくるような情念。

伊藤彦造イラストレーション.jpg(29.6 x 22.6 x 1.8 cm)  伊藤彦造イラストレーション 旧.jpg
伊藤彦造イラストレーション 〔新装版〕』['06年]『伊藤彦造イラストレーション』['99年/A&Aパブリッシング]

伊藤彦造イラストレーション43.jpg 画家・伊藤彦造(1904 - 2004/享年100)のイラスト集で、'99年に刊行されたものの「新装・増補版」。伊藤彦造の作品に関しては、とりわけ剣戟モノの挿絵画が知られていますが、構成のダイナミズムと細部の描写の精緻さ、そして湧き上がってくるような情念は、このジャンルでは群を抜いていると言っていいのでは。

「天兵童子」(吉川英治原作、「少年倶楽部」昭和12~14年)

 伊藤一刀斉の末裔の生まれですが(ゆえに剣戟シーンの絵にはこだわりを感じる)、幼少時は虚弱だったそうで、「大人になるまで生きることはできない」と言われたそうな。それが100歳まで生きたわけで、やはり手先を使う仕事をする人は長生きするのかなとも思いましたが、絵の仕事そのものは65歳ぐらいで引退しています(これぐらいの細密度になると、年齢的に描ける限界があるのも無理ないか)。

伊藤彦造イラストレーション70.jpg伊藤彦造イラストレーション 3.jpg 解説の中村圭子氏は彼の絵を「被虐のエロス」という言葉で表していますが、子供時代には拒食的自虐の性向があり、自らを徹底的に飢えさせ、飢えを糧に闘志を高めていくタイプだったらしく、そうしたものが、彼の絵の醸す情念に繋がっているのではないかと。短剣を携え、自らの肉体に刃をあて、絵具皿に血を溜める―なんてこともしていたらしいです。

 大人になってから剣術を実技面で一層探求した結果、その道に秀でるところとなり、剣術師範にまでなったということで、中村圭子氏は、同じく少年時代から病弱で成人してから肉体を鍛えた三島由紀夫を想起すると書いていますが、確かに似てるね、「美剣士」の絵からはホモセクシュアルな匂いが感じられるし、伊藤彦造自身も「憂国の士」であったし(終戦時には戦犯容疑がかけられ、絵はGHQによって一時発禁になっている)。

伊藤彦造イラストレーション51.jpg 本書の旧版刊行時には存命していましたが、それでも引退して30年経っており、結構"昔の人"というイメージがあったものの、本書によれば、昭和初年代から10年代の「少年倶楽部」「キング」などで活躍した時代を経て、昭和20年代の「少年画報」時代、更に昭和30年代の学年雑誌時代を経て、40年代前半の名作文学の挿絵までと、その時々の時代の要請に沿って何度も復活を遂げ、洋モノなども含め、広いジャンルで活躍していたのだなあと。

「魔粧仏身」(吉川英治原作、「キング」昭和12~14年)

 昭和30年代の"学年雑誌"時代とは、小学館の「小学○年生」といった雑誌に挿絵を描いていたもので、う~ん、当時、こんな古風な挿絵、あったかなあ。リアルタイムで見た記憶が無いけれど、主に昭和30年代前半かな。今の時代の感覚からすると、小学生の読む雑誌に載せるにしてはかなり"情念の濃い"絵もあります(線画にしてこの"濃さ"―というのがこの人の魅力なんだけど)。

吉川英治『萬花地獄』(昭和2年)挿画
伊藤彦造3.bmp伊藤彦造画集.jpg伊藤彦造名画集.jpg
伊藤彦造画集 (1974年)』[講談社/150p]/『伊藤彦造名画集―憂国画家の入魂世界』['85年/講談社/48p]

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