【1756】 ○ 本橋 成一 『屠場 (2011/03 平凡社) ★★★★

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見開き写真の迫力。「機械化される前の職人の熟練とプライドの世界」(鎌田慧)。

本橋成一写真展「屠場」.jpg 『屠場』['11年] 『ドキュメント屠場』.jpg 鎌田慧 『ドキュメント 屠場 (岩波新書)』['98年]
(25.8 x 19.4 x 2 cm)

本橋成一写真展「屠場」写真展.jpg 炭鉱や魚河岸、上野駅、サーカスなど市井の人々をテーマに撮り続けてきた写真家による「屠場」の写真集で、伝統的な手法で牛の解体加工を行っている大阪・松原屠場を取材しています(この人、チェルノブイリ原発事故の被災地で暮らす人々を撮影した「アレクセイと泉」や、最近ではアフリカに取材した「バオバブの記憶」など、海外に材を得た映画作品の監督もしている)。

 銀座ニコンサロンで今('12年6月)「本橋成一写真展・屠場(とば)」が開催されていて、やはり本書の反響が大きかったのではないかなあ。何せ、日本で初めての「屠場」の写真集だからなあ。

日出(いず)る国の工場 大.jpg テーマもさることながら、見開き写真が殆どを占めることもあって、すごい迫力。殆どの人が初めて見ると思われる牛が処分されていく過程(そう言えば確かに、村上春樹氏の『日出る国の工場』('87年/平凡社)に小岩井牧場を取材した「経済動物たちの午後」という話があって、「ホルスタインの雄は生後20ヶ月ぐらいで加工肉となる」というようなことが書いてあったなあ)、親方たちのどっしりした面構え、職人たちの真剣な眼差し、おばちゃんたちの巧みな手捌き―「働く」ということのエキスが詰まっている写真集です。

 '98年に『ドキュメント屠場』(岩波新書)を著している鎌田慧氏の解説が寄せられていて、それによれば、「屠場」と書いて東日本では「とじょう」、西日本では「とば」と読むそうです(従って大阪・松原屠場を取材した本書は「とば」となっている)。

 大阪・松原屠場は、伝統的な作業工程で解体作業を行っているわけで、鎌田氏も、「機械化される前の職人の熟練とプライドの世界」と書いていますが、まさにその通り。

 「屠場」で働く人には伝統的に被差別部落出身者が多く、「屠場」での労働は部落差別問題と古くから密接な繋がりがあったようですが、それと併せて、あるいは、それとは別に、殺生を忌み嫌う人々の感情も昔からあったのだろうなあ(そして今も)。でも、こうした人たちの労働の上に、日本の豊かな食文化は成り立ってきたわけです。

 因みに、「屠殺」と言う言葉が差別用語かというとそうではなく、「屠場(とじょう・とば)」も元々は「屠殺場(とさつじょう)」と言っていたのが(『ドキュメント屠場』には、芝浦屠場の前のバス停は「屠殺場」という名だったとある)、やはり「殺」という字を避けて「屠場」になったらしく―「屠」も「屠(ほふ)る」だから、意味として同はじなのだが―それもやがて「食肉市場」「食肉工場」などいった言葉に置き換えられていたようです。

 全く無いわけではないですが、もう少し働いている人が笑っている写真があっても良かったかなあ(まあ、仕事中のところを撮っているわけだから、接客業でもあるまいし、にこにこ、へらへらしている人は、そうそういないわけだけど)

 というのは、鎌田氏の『ドキュメント屠場』を読むと、みんな明るいんだよなあ。職場内の結束が強く、たいへん「人間的な労働の場」であることが窺えるので、こちらも是非読んで欲しいと思います。 

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This page contains a single entry by wada published on 2012年6月11日 00:00.

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