【1747】 ◎ ロベール・ドアノー 『パリ―ロベール・ドアノー写真集』 (2009/01 岩波書店) ★★★★★

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「パリ」写真集として単体で一番纏まっている。588点をドアノー自身の文章と併せ贅沢に配置。

パリ ロベール・ドアノー写真集.jpg   ロベール・ドアノー47.jpg  ロベール・ドアノー131.jpg
(32.6 x 25.6 x 4.8 cm)『パリ―ロベール・ドアノー写真集

ロベール・ドアノー.jpgロベール・ドアノー210.jpg 以前に当ブックレビューでロベール・ドアノー(Robert Doisneau, 1912-1994)『パリ―ドアノー写真集(1)』('92年/リブロポート)を取り上げたら、その後暫くして本書が刊行されてしまいましたが、その間、'08年10月に日本橋三越でドアノー展があったりして、こうなる予感は当時あったような気がします(原著は'05年刊行)。今年('12年)は、ドアノーの「生誕100年記念写真展」が東京都写真美術館で3月から5月まで開かれていましたが(行こうと思いつつ遂に行けなかった...)、また新しい写真集が刊行されるのかなあ(この人の作品は40万点あるとのこと)。

ロベール・ドアノー301.jpg リブロポート版の124ページに対してこちらは393ページという圧倒的ヴォリューム、リブロポート版と重なる写真もあるものの、殆ど初めて見る作品であり、しかも、リブロポート版のような全集の内の一冊ではないため(全集の方は「パリ郊外」を撮った巻が別にある)、「パリ」という観点で見ると、単体でよりよく(一番)纏まっているという感じで、とてもいいです。

ロベール・ドアノー316.jpg 巻頭にドアノー自身によるエッセイ風の序文があり、また主だった写真には、雑誌などで発表された、これもドアノー自身によるキャプションがあって、中にはやはり短いエッセイ風になっているものもありますが、気のきいた文章も結構あって読むとなかなか面白く、この人、文章家でもあったのだなあと。

 ドアノーは、アンリ・カルティエ=ブレッソン(1908‐2004)のような裕福な家庭の出ではなく、父親は配管工であったという庶民の出であり、最初はルノーに勤務して工場内の記録写真を担当していましたが、プリントの出来栄えにこだわるあまり遅刻が重なり、解雇されたとのこと。

ロベール・ドアノー335.jpg やがてヴォーグ・フランス誌などとフォトグラファーとして契約し、ファッション写真の仕事をしながら夜な夜なパリの街に出歩いて写真を撮っていたということで、ヴォーグ誌との契約からスタートしたところはヘルムート・ニュートン(1920-2004)に似ていますが、パリの街中を歩き回って夜のパリを撮影したところはブラッサイ(1899 - 1984)を思わせ、作品の雰囲気も、夜のパリを撮ったものはブラッサイに近いかも。

 但し、ブラッサイは異邦人の視点から、やや妖しげな娼婦や恋人達を多く撮りましたが、ドアノーは"庶民"に視線を合わせ、被写体の世界により身近に接しているという感じで、その分ユーモア乃至エスプリが効いていて、且つ、そこはかとない哀感が漂っていたりする作品が多いのが特徴でしょうか。第二次世界大戦中にはパリ解放時などの報道写真なども撮っていますが、そうした写真にも庶民の視点が窺えます。

パリ市庁舎前のキス.jpg 一方で、パリの恋人たちのキスの場面を捉えた代表作「パリ市庁舎前のキス」などが、被写体に予めモデルになることを依頼して撮った「演出作品」であったことが後に明らかになったのは有名な話です。

 でも、本書の表紙になっているアコーディオンの流しの女性などは、付されている文章を読む限りでは偶然の出会いであったようにとれ、その時その時に応じて、被写体になることを依頼したり(ドアノーなら気軽に声掛けしそう)、敢えてわざわざそうしたことをしなかったりしたのではないかなあ。

パリ―ロベール・ドアノー写真集  .jpg 30年代から80年代にかけての作品を収め、50年代のものが最も多いようですが、どの年代のものも良くて、この写真集で改めて、彼のユーモアセンス、庶民派感覚を見直しました。

 装丁は豪華で、588点もの写真を贅沢に配置、しかも、ドアノー自身のエッセイ風キャプション付きということで、一見一読、出来れば購入、の価値あり(この手の写真集は、定価無しの時価?)。

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This page contains a single entry by wada published on 2012年5月25日 23:20.

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