【1282】 ○ 長沢 均 『昭和30年代モダン観光旅行―絵はがきで見る風景・交通・スピードの文化』 (2009/02 講談社) ★★★★

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レトロなヴィジュアルを楽しめ、解説はカッチリした日本文化論に。

昭和30年代モダン観光旅行.jpg 昭和30年代モダン観光旅行(帯なし).jpg 『昭和30年代モダン観光旅行』(22 x 18.2 x 1.8 cm) ['09年]

昭和30年代モダン観光旅行].jpg 昭和30年代の絵葉書を集めたもので、これ全部、グラフィック・デザイナーである著者の個人コレクションで、しかも集め始めたのが80年代初頭とのことで、と言うことは昭和50年代後半から集めたということになるから、よくそこから遡って集めたものだなあと感心させられました。

 「橋」とか「ロープウェイ」とかテーマごとに括っていて、現在は無い建物や施設、交通期間などもあり、記録的にも貴重なのではないでしょうか。

 何れもやや毒々しい原色がかって見えるのは彩色してあるからで、自分もやや時代が後の方になりますが数百枚の絵葉書のコレクションを有しており(要するに父親の出張土産の定番だっただけのことだが、著者が集め始めた頃には集めるのをやめていた)、但し、自分が持っているものの内、明らかに彩色されているものはほんの一部です。

東京今昔散歩.jpg 歴史・サイエンスライターの原島広至氏の『東京今昔散歩―彩色絵はがき・古地図から眺める』('08年/中経の文庫)にもありましたが、こうした彩色絵葉書の歴史は明治時代からあり、さらに遡るとルーツは江戸時代になることが、本書においても解説されています。

 しかし、印刷技師はやり放題とまでは言いませんが、色付けだけでなく、洋服姿の人物を浴衣姿に差し替えて温泉街らしく見せたりとか、今で言うCG加工みたいなことをしているんだなあと。

 カラー写真の無かった明治時代には流行っていたであろう"彩色"を、なぜ昭和の30年代においてもやっていたのか。
 その背景には、絵葉書は高度経済成長期に突入した日本人の観光・レジャーに対する"欲望"を照射したものであり、平板な風景を写し取るだけではその欲求を満たさず、ピクチャレスク(視覚的・絵画的)に"描かれて"いるものが求めらたというのが、著者の分析のようです。

 本書においては、ヴィジュアルを優先させるために解説文はコンパクトに纏めるよう努めたようですが、読んでみると、細かい調査がなされているのが分かり、また、折々の社会事象を詳細に追いつつ当時の日本人の生活を俯瞰していて、かなりカッチリした日本文化論に仕上がっています。
 趣味の世界を超えて研究者の領域に入っているなあ、この人。

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