「●人事・賃金制度」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1623】 滝田 誠一郎 『65歳定年時代に伸びる会社』
人事制度設計の実務テキストとして読め、現時点の傾向を再確認する上でも良書。
『役割・貢献度賃金―成果主義人事賃金制度の再設計』['10年]
日本経団連が2007年5月に「今後の賃金制度における基本的な考え方」として発表した、〈年齢や勤続年数を基軸とした賃金制度〉から〈仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度〉へ転換せよとの提言を受けて、日本経団連傘下の「人事賃金センター」が、人事処遇システムのあり方を、企業の実務担当者を交えて討議し、その内容を実務的な視点で取り纏めたものです。
これからの成果主義人事・賃金制度のあり方を3つの視点(公平性・納得性の視点、仕事・役割・貢献度の視点、中長期的な人材育成の視点)から概説した後、「賃金体系」「等級制度」「賞与制度」「人事評価制度」のそれぞれについて、その目的や機能、今後の方向性や制度設計上の留意点等を、実務的な観点から解説、後半は、このワーキンググループに参加した企業の制度事例集になっています。
賃金、等級、賞与、評価の4つのテーマそれぞれに1章を充てていますが、本のタイトルからみても、とりわけ「賃金」が核になるのではないでしょうか。
定型職務、非定型職務のそれぞれについて、職群ごとにいくつかの賃金体系を提案していて、その内容は、概ね以下の通りとなっています。
◆定型的職務
① 一般事務職・現業技能職・販売職等
・職務給(単一型)+習熟給(積み上げ型)または職務給(範囲型)
・職務給(単一型)+習熟ランク給(習熟レベル別定額)
② 着任時に完全な職務遂行能力が求められる定型的職群
・職務給(単一型)
・職務給(単一型)+経験加給(積み上げ型)
③ 現業監督職
・職務給もしくは職能給(単一型)+成果給(業績給)
◆非定型職務
① 担当者の職務伸長等に応じて課業配分の一部分が変わる職務群(企画職、総合職等)
・職能給(範囲型)
・職務給(範囲型)
② 職務が一定レベルに達し自己裁量で職務を遂行できる職務群
・上限職能給+業績給(洗い替え方式)
③ 経営目的を達成するために役割等が予め決められた職位(管理職、営業職等)
・職務給(役割給)+業績給(洗い替え方式)
・職務給(役割給)+業績給(積み上げ方式)
日本経団連の提言には、「従業員の異動などを容易にするためには、1つの職務に1つの賃金額を設定する"単一型"ではなく、同一の職務等級内で昇給を見込んで賃金額に幅を持たせる"範囲型"の制度とすることが一般的である」とある一方で、「職群ごとに賃金制度の基軸を変えるなど、自社の実情に合ったバランスのとれた制度とすることが望ましい」とあり、賃金制度に関するこうした木目細かい解説は、その提言に即したものであると言えるでしょう。
また、このように仕事内容によって賃金制度に柔軟性と多様性を持たせるという考え方は、後半の企業事例(NEC、山武、JTなど大手企業中心)もほぼその考え方に沿ったものであることから、(先進的と言うよりは)現時点でのスタンダードであると思われます。
コンパクトに纏められていて、賃金表の見本なども添えられていることから、賃金制度の設計に際しての実務上のテキストとなる本だと思います(但し、ページ数は多くないが、その分詰め込み気味なので、ある程度の実務経験者でないと、内容を十分に理解するのはきついかも)。
このことは、「賃金」についてに限らず、等級、賞与、評価について書かれている部分にも当て嵌まり、それら制度のあり方についての自社適合を探る上で、本書に書かれていることは何れも押さえておきたいし、また、現在の人事制度設計の傾向を再確認する上でも、バランスのとれた(時代遅れでもなければ、進み過ぎでもない)内容であるように思いました。