【1620】 △ 小野 泉/古野 庸一 『「いい会社」とは何か (2010/07 講談社現代新書) ★★★

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経営人事課題の直近のトレンドをよく纏めているが、"おさらい"的な分析に終始しているとも。

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「いい会社」とは何か (講談社現代新書)』['10年]

 「いい会社」とは何かという視点は、経営者だけでなく、人事の仕事に携わる人にとっても欠かせないものだと思いますが、本書は、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所(RMS研究所)がこれを研究テーマとして取り上げ、「いい会社」とは何かを探ったものです。

 冒頭で、バブル経済以前から現在までの企業の置かれた環境と、その時々に試みられた人事施策を振り返り、企業における個人と組織の関係の変遷を追いつつ、現代においては、従業員の会社への信頼が低下し、働きがいは長期低落傾向にあるとしています。

 さらに個人の視点に立って「働きがい」とは何かを「マズローのZ理論」(マクレガーのY理論にX理論の強制的因と方向付けの要因を組み合わせた改良型Y理論)などを取り上げながら考察し、「働きがいのある会社」では、経営と働く人間との「信頼」が重要なファクターであることを指摘しています。

 以上を踏まえたうえで、財務的業績がいい企業が「いい会社」であることには違いないが、財務的に大きな飛躍はないものの、長く事業を継続している企業もまた「いい会社」であり、さらに、働く人の「働きがい」というのも、「いい会社」を考える上での大事な視点であるとし、「いい会社」とは何かを探る指標として、この「財務」「長寿」「働きがい」の3つを挙げています。

 さらに、「財務的業績がいい企業」と「長寿企業」に共通する特徴として、①時代の変化に適応するために自らを変革させている、②人を尊重し、人の能力を十分に生かすような経営を行っている、③長期的な視点のもと、経営が行われている、④社会の中での存在意義を意識し、社会への貢献を行っている、という4つを導き出し、それが、本書でいうところの「いい会社の条件」ということになるわけですが、以下、そうした「いい会社」に見られる経営者の考え方や経営人事面での施策を紹介しています。

 ③の「長期的な観点での施策」は、何らかのポリシーに基づかなければ長続きできず、そのよりどころとして、④の会社の「社会的存在意義」を挙げており、「いい会社」においては、企業理念や組織風土に「社会の中で生かされ、社会への貢献」という内容が組み込まれていて、そのことが企業の成長に一役買っていると分析しています。

 会社の「存在意義」を認識していることが信頼関係のベースであるということですが、その信頼関係をより強めるためには、「社員一人ひとりと向き合う」ことが大切であり、そのことが会社の業績を伸ばすことにも繋がるというのが、本書の言わんとするところでしょう。

 経営人事が抱える課題の直近のトレンドを探るうえではよく纏まっており(こうした、これまでの推移及び現状分析は、著者らの得意とするところ)、全体の論旨も、企業の社会的責任(CSR)から、働く人の多様な価値観(ダイバーシティ)へと旨く繋げているように思えました。

 ただ、あまりに旨く纏まり過ぎていて、突飛な主張に走っていないという意味では「抑制が効いている」とも言えますが、逆にあまり読み応えを感じないとうのが、個人的な感想です。

 「社員一人ひとりと向き合う」ことがいかに大変なことであるかは、筆者らも十分に認識しているのですが、その結論に至るまでの"おさらい"的な分析がメインとなり、結論部分の堀り下げは、やや中途半端なまま終わっている感じもしました。

 所謂「研究所」系のレポートみたい。最近の講談社現代新書って、こういうの多くないか?

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