【1592】 ◎ 高谷 知佐子 『雇用調整の法律実務―労働条件変更から解雇まで (労政時報別冊)』 (2009/04 労務行政) ★★★★☆

「●労働法・就業規則」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1593】今野 晴貴 『マジで使える労働法
「●リストラクチャリング」の インデックッスへ

雇用調整の範囲を広く捉えて解説。重要判例の解説が分かり易い。

雇用調整の法律実務.jpg 『雇用調整の法律実務 (労政時報別冊)』(2009/04 労務行政)

 著者は、'09年1月、'10年8月にBest Lawyers(ベスト・ロイヤー)による「The Best Lawyers International 2009:Japan」「The Best lawyers International 2010:Japan」(Labor and Employment分野)に選ばれた、森・濱田松本法律事務所に所属する弁護士で、企業が苦渋の決断とも言える雇用調整をするに際しての、企業側として守らなければならないポイント、参考とすべき判例や書式等を解説しています。

 サブタイトルに「労働条件の変更から解雇まで」とあるように、雇用調整の範囲を広く捉え、賃金・諸手当のカット、福利厚生や出張旅費・日当等のカット、定期昇給の凍結・廃止、期中における年俸額の減額などから、配置転換、出向・転籍、一時休業、ワークシェアリング、更には、採用内定の取り消し、パート社員の雇い止め、そして退職勧奨、希望退職の募集、整理解雇に至るまで、それぞれについて解説しています。  

 初学者でも理解し易い書き方がされていている一方で、微妙な判断を要する問題についての著者なりの考え方も、随所に見られます。

 後半の第2章から第4章までが、それぞれ「規程・協定・様式例」「関連法規・通達」「関連判例」となっていて、とりわけ「関連判例」の解説に多くのページを割いていますが(29判例、約90ページ強)が、いずれも雇用調整を行ううえでの重要判例です(判例ごとにページ替えされていて読み易く、また、解説文自体も丁寧に書かれていてわかり易い)。 

 解雇権濫用法理が労働契約法において明文化されたとは言え、現時点では「合理性」の判断などは、実務上は過去の判例を参照するしかなく、また、賃金等のカットや配置転換、出向・転籍などに関わる問題も、その適否の判断については同じことが言えます(つまり、これまでと変わっていないということ)。

 そうした意味では、過去の判例への理解を深めておく必要があり、本書の構成はその点で実務に適っているように思います。

 '09年4月に「労政時報」の別冊として刊行されたものですが、序文に「急激な経済の悪化により収益力が激減し、企業そのものの存続のために、コストカット、それも、必ず効果が顕れる人員削減や賃金のカットを急いで実施せざるを得ないという企業も多いのではないかと思われます」とあるのは、サブプライム・ローン問題がアメリカで発生し、リーマン・ブラザーズの破綻の影響が懸念されたしたことを受けてではないかと思いますが、実際にリーマン・ショックの日本の雇用社会への影響がより深刻化し始めたのは本書刊行前後にかけてであり、そうした意味では、タイムリーな刊行でもありました。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2011年11月23日 00:06.

【1591】 ◎ 大内 伸哉 『キーワードからみた労働法』 (2009/04 日本法令) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【1593】 △ 今野 晴貴 『マジで使える労働法―賢く働くためのサバイバル術』 (2009/05 イースト・プレス) ★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1