【1591】 ◎ 大内 伸哉 『キーワードからみた労働法 (2009/04 日本法令) ★★★★☆

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雇用・労働に関するキーワードを取り上げ、気鋭の労働法学者がそれらに関する俗説を斬る!

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キーワードからみた労働法』['09年/日本法令]

 「最低賃金」「均等待遇」「雇止め」といった雇用・労働に関するキーワードを取り上げ、気鋭の労働法学者がそれらに関する一般常識や俗説を斬るというコンセプトのもと、雑誌『ビジネスガイド』に連載されたものに、加筆修正して単行本化した本で、著者の『通達・様式からみた労働法』('07年/共著)、『就業規則からみた労働法』('08年)に続く、日本法令を版元とするシリーズ第3弾。

 帯の口上からして、「均衡待遇の保障は労働者のためにならない」「偽装請負は企業だけが悪いのではない」「名ばかり管理職が出てくるのには法律にも問題がある」「ワーク・ライフ・バランスを政府が推進するのは憲法の理念に反する」「メンタルケアの強化は労働者にとって危険である」と逆説的ですが、読んでみて「そうなんだよなあ」と納得させられる部分は多かったです。

 有給休暇の取得が進まない現状に対して、時季指定権を社員に付与している現在の労働法制のあり方に原因があり、計画年休制度(労基法39条5項)からさらに踏み込んで、年休は社員の時季指定権ではなく、会社の方で指定する制度にしてしまうのはどうかといったユニークな提言も。

 とりわけ、「偽装請負」や「名ばかり管理職」の問題など、法が実務の現場で十分遵守されていない場合には、法制度の方にも問題がある可能性があるとしているのには頷かされました。
 例えば、請負会社の社員にユーザー会社がどのような指示をすれば、労働者派遣法の「指揮命令」違反になるのかが明確ではない、あるいは、どのような労働者が労基法41条2号の「管理監督者」に該当するか法律上明確でなく、実態に即してケースバイケースで判断せざるを得ない状況になっていると。

 だからと言って、例えば、労働時間規制の適用除外にならない社員を、ホワイトカラー・エグゼンプションのような制度的受け皿がないから、やむなく管理監督者として扱っているようなケースは、それがどんなに望ましい法律でも(著者はホワイトカラー・エグゼンプションには条件付きで前向き)、実際に制定される前に会社が勝手に実施してしまうのは許されないとしています。

 そう念押しをしたうえで、現行の法制度のもとでの対応策を示すとともに、「抜け道のある法律を作って、甘い誘惑をしておきながら、突然、法の解釈・運用を厳密にして取り締まるというのは、アンフェアな感じ」とし、抜け道の生まれない労働法制のあり方についての具体的提言がなされています。

 本書に関心を持たれ、それらの提言をより深く考察してみようと思われた方には、少しだけ"上級者"向けになりますが(価格も千円高くなるが)、著者の『雇用社会の25の疑問-労働法再入門-』('07年/弘文社)がお奨めで、本書の内容は、この2年前に刊行された単行本の問題提起部分を、より噛み砕いて簡潔にまとめた「入門書の入門書」とも言えます。

 また本書では、最低賃金を引き上げることや解雇規制を強めることなど、一般には労働者のためになると考えられている法改正や労働政策が、本当に労働者の権利を守ることに繋がると言い切れるのかといったことも問題提起されていて、その部分についての考察も示唆に富むものでした。

 この問題についての著者の見解は、本書と同時期に刊行された『雇用はなぜ壊れたのか―会社の論理vs.労働者の論理』('09年/ちくま新書)においても、「2つの論理」の対立軸を行き来しながら、どうすれば両方の調整が図れるかを考察するという方法で示されていて、こちらは、より入手しやすい新書本であるため(タイトルは「労働経済」の本っぽいが、これも中身は「労働法制のあり方」についての本)、これもまた、併読をお奨めします。

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