【1590】 △ 渡部 卓 『メンタルタフネス経営―打たれ強く成長する』 (2009/09 日本経済新聞出版社) ★★★

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メンタルヘルス対策を経営戦略の一環として捉えた本、だったが...。

メンタルタフネス経営.bmpメンタルタフネス経営―打たれ強く成長する』(2009/09 日本経済新聞出版社)

 タイトルは「メンタルタフネス経営」となっていますが、中身は職場の「メンタルヘルス」施策を経営の観点から書いた本と見てよいでしょう。

 著者は、外資系IT企業の事業部長などを経て、企業を対象としたメンタルヘルスに関するコンサルティングを行う会社を'03年に立ち上げた人であり、転職の契機は、著者自身が会社員時代にハードワークのためうつ病に罹患し、そこから回復した経験にあり、本書で取り上げられているうつ病の事例の中には、自身の経験も含まれています。

 前書きに「職場のメンタルヘルスというのは単なる産業保健や福利厚生、医療の問題だけでなく、技術革新への投資、人材育成やコストコントロールなどと同様に、企業が戦略的に取り組むべき最も重要な経営課題のひとつ」とあるように、医師や心理療法士の書いた本と異なり、マネジメントの観点から書かれているのが、本書の特徴です。

 本書の「メンタルタフネス」という言葉には、個人のストレス耐性のことも含まれてはいますが、むしろ「メンタル問題に強い会社」という意味で、経営体質に係っている言葉であると言え、「メンタルヘルス」という言葉の企業側の受けがイマイチなのに対し、「メンタルタフネス」と言うと相手が身を乗り出してくるという状況がやはりあるのかなあと。
 但し、「従業員の健康を守ることが経営トップの使命であると」との主張には、全くその通りであると思いました。

 また、メンタルヘルスの改善と併せて、ワークライフバランスの実現を図ることで、従業員のモチベーションを高め、会社の生産性を向上させることを説いており、そうしたストレスマネジメントと組織活性化を包括したトータルな施策を、「メンタルリエンジニアリング」として提唱しています。

 著者の言う「メンタルリエンジニアリング」とは、「メガストレス時代を乗り切るために開発された認知療法の考えを活かした人材と組織の経営戦略」とのことで、「ABC理論による認知療法」というのが前面にきていますが、その認知療法と著者の提唱する社内研修などの施策の関係性が、本書においてはやや曖昧な気がしました。

 精神科医の中には、本書に多く取り上げれている「うつ病」の治療において、認知療法が効果的であるのはごく限られた患者であるとの見解もあります(岩波明著『ビジネスマンの精神科』('09年10月/講談社現代新書)。

 個々には賛同する部分、ナルホドと思わされる部分もありましたが、研修やトレーニングについては、もう少し詳しく具体的に書いて欲しかった気もします(企業秘密なの?)。

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