【1332】 △ 西 加奈子 『うつくしい人 (2009/02 幻冬舎) ★★★

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独身OLの一人旅。悪くはないが、中篇でまとめた方がスッキリいったのでは。

うつくしい人 西加奈子.jpg 『うつくしい人』 (2009/02 幻冬舎)  西 加奈子.jpg 西 加奈子 氏

 32歳の独身OLの私は、他人の苛立ちに怯えながら周囲への注意を払い続けるような会社での日々に疲れ、退職をして気分転換に瀬戸内の離島のリゾートホテルへ旅に行くが、そこには、ホテル・バーテンダーの坂崎という男が働いていて、彼は冴えないけれども何となく私を安心させる。一方、暇と金を持て余しているドイツ人のマティアスという男が滞在客としていて、私と坂崎、マティアスは、ふとしたことから互いの距離を接近させる―。

 最初は、何か暗いムードの文芸小説という感じで、主人公の自意識との葛藤みたいなものに付き合わされているような感じも無くなく、更に主人公の姉に対する葛藤のような話が出てきて、ますます神経症的になってくるので、西加奈子ってこんな作風の人だったかなあと―。

 でも、一見風変わりなマティアスや坂崎の抱えているものが明らかになるにつれて、逆に「私」の方には何かゆとりが出てきたみたいで、出版社の口上に「非日常な瀬戸内海の島のホテルで出会った三人を動かす、圧倒的な日常の奇跡。心に迫る傑作長編!」とありますが、これはやや大袈裟、最後はまあ無難なところに落ち着いたという感じかなあ。

 主人公同様に作者自身が自意識と自己嫌悪に悩まされている時期にこの作品を書き始め、書き終えた時には、最悪の状況を脱していたというようなことがあとがきに書かれていますが、確かに、書くことによって自己セラピーしているような印象も受けます。

 そのためか、それほど長い作品でもないのにやや冗長に思える部分もあり、全体としてはそれほど悪くはないのですが、モチーフ的にも見ても、長編よりも中篇程度で纏めた方がスッキリいったのではないかと。

 作中に、本に挟まっていたという1枚の写真を探すため、夜中に3人がホテルの図書室の本を片っ端から開き始めるという場面があり、余談になりますが、ホテルに図書室があるのって、たまに出くわすといいなあと思います。

かんぽの宿.jpg 高級リゾートホテルではないですが、連泊が原則の湯治型の「かんぽの宿」に以前に宿泊した際に、公立図書館の処分本または滞在客が置いていった本などを集めたと思われる図書室がホテル内にあり、蔵書3,000冊と結構充実していて(自室への貸し出し可)、シーズンオフののんびりとした雰囲気の中で集中して読書できたことを、この小説を読みながらずっと思い出していました(オフとは言え、宿泊客の数の何倍もの従業員がいて無聊を託っているというのは、経営上、やや問題があるのではとも思ったが)。

【2011年文庫化[幻冬舎文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2010年2月27日 10:12.

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【1333】 ○ 伊坂 幸太郎 『オーデュボンの祈り』 (2000/12 新潮社) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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