【1169】 ◎ 笹山 尚人 『人が壊れてゆく職場―自分を守るために何が必要か』 (2008/07 光文社新書) ★★★★☆

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面白かった。労働側弁護士の本だが、企業側が読んでもユニオン対策の参考書として使える?

人が壊れてゆく職場.jpg人が壊れてゆく職場 (光文社新書)』 ['08年] 笹山 尚人.jpg 笹山 尚人 氏 (弁護士/略歴下記)

人が壊れてゆく職場  .jpg 著者は1970年生まれの弁護士で、首都圏青年ユニオンの顧問でもあり、その著者が扱った案件の内から、名ばかり管理職の問題、給与の一方的減額、パワハラ、解雇、派遣社員の雇止めなどのテーマごとの典型的な事案を紹介し、相談者からどのような形で相談を受け、会社側とどのように交渉し、和解なり未払い賃金の回収なりに至ったかを書き記しています。

 要するに労働側弁護士が、ユニオンに寄せられた労働者の訴えを聞いて、ユニオンと協働してどのように企業側の横暴を暴いていったかというデモンストレーションの書ともとれなくもないですが、労働者はもっと労働組合を活用しようというのが本書の主たるメッセージの1つでもあり、こうした流れになるのは当然かも。

 労働者から相談を持ち込まれて、弁護士やユニオンがどのような対策をとるのか、その経緯や戦略がリアルに描かれているためかなり面白く読め、事実だから"リアル"なのは当然ですが、「よし、これはいける」とか「参ったな、これはまずいかも」などといった顧問弁護士として係争の見通しに対する感触が随所に吐露されているため、まるで小説を読んでいるみたいでした(顧問としての立場だから書ける部分もあり、ユニオンの人が書くとこうはならないのでは)。

 そうした点で、企業側が読んでも、ユニオン対策の参考書として使える部分もあるように思えたし(勿論、こうした事態に陥らないようにすることがそれ以前の話としては当然あるが)、労働法の趣旨や労働契約、就業規則の性質、労働審判の仕組み等についても、それぞれ係争の場面と照らしつつ具体的に解説されているので、実感を持って理解できるものとなっています。

 最初の方にある給与の一方的減額や上司が部下を殴り「顎に穴を空けた」(!)といったような事例は、会社側に非があることが自明の、且つ、かなり極端なケースにも思えましたが、係争案件として最も数の多いという「解雇」については、会社側の権利濫用を疎明するのが弁護士にとっても結構難しいケースもあることが窺え、労働者側が勤務期間を通じて完璧に清廉潔白であればともかく、中盤にある解雇の事例などもそうですが、訴える労働者側にも忠実義務に反する行為があったりすると、会社側はそこを突いてくる-そうした中で、いかに依頼人に有利な結果を導くかと言うのは弁護士の腕にかかっているのだなあと(何だかディベートの世界みたいだし、海外の法廷ドラマのようでもある)。

 ジョン・グリシャム原作の映画「依頼人」さながらに、1万円の着手金で派遣元から解雇された依頼人の仕事を受けた話などには著者の熱意を感じますが、これなども「感動物語」というより、和解に至る経緯とその事後譚が興味深かったです。

 一方、著者の言う労働組合活動の復興は、従来型の企業内組合ではなかなか難しいのではないかという気もし、結局はコミュニティ・ユニオンということになるのでしょうが、ユニオンの場合、労働者1人1人は、自らの案件が決着すると組合員であることを辞めるのが殆どのようで、その辺りはユニオンにとっても難しい問題ではないでしょうか(係争の間しか組合費が入らない)。
 結局、その結果ユニオンは、動いたなりの報酬を得なければというかなりタイトな経済原理のもとで活動している面があるように思われるのですが(その事は、労働者側の責に帰すべき部分が大きいと思われる場合には軽々しく介入しないということにも繋がっているのだが)。
 それは弁護士も同じかも。本書にある「着手金1万円」のケースも、解決金から報酬を得ればいいという見通しのもとで動いているわけで、こうした弁護士の本音に近い部分が書かれているという点でも、興味深い本でした。
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笹山 尚人 (ささやま なおと)
1970年北海道札幌市生まれ。1994年中央大学法学部卒業。2000年弁護士登録。第二東京弁護士会会員。東京法律事務所所属。弁護士登録以来、「ヨドバシカメラ事件」など、青年労働者、非正規雇用労働者の権利問題を中心に事件を担当している。共著に、『仕事の悩み解決しよう!』(新日本出版社)、『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)などがある。

《読書MEMO》
●目次
はじめに
第一章  管理職と残業代 ---- マクドナルド判決に続け
第二章  給与の一方的減額は可能か? ---- 契約法の大原則
第三章  いじめとパワハラ ---- 現代日本社会の病巣
第四章  解雇とは? ---- 実は難しい判断
第五章  日本版「依頼人」 ---- ワーキング・プアの「雇い止め」
第六章  女性一人の訴え ---- 増える企業の「ユーザー感覚」
第七章  労働組合って何? ---- 団結の力を知る
第八章  アルバイトでも、パートでも ---- 一人一人の働く権利
終 章  貧困から抜け出すために ---- 法の定める権利の実現
おわりに

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This page contains a single entry by wada published on 2009年5月 9日 22:41.

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