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要領を得た解説と相俟って、細部の細やかさや奥行きの深さが実感しやすい。
『フェルメールの秘密 (イメージの森のなかへ)』['08年](28 x 23.2 x 1.2 cm) 朽木ゆり子『フェルメール全点踏破の旅 (集英社新書ヴィジュアル版)』['06年]
近年、17世紀の画家ヨハネス・フェルメール(1632‐1675/享年43)がブームで、今年('08年)8月には7点の作品が上野の東京都美術館にやってくるということ(何しろ、生涯で30数点しか描いていない)。
美術ノンフィクション作家の朽木ゆり子氏の『フェルメール 全点踏破の旅』('06年/集英社新書ヴィジュアル版)なども人気度アップに寄与したのでしょうが、「旅」と謳う通り美術紀行として堪能できるほか、作品1つ1つの意匠や来歴がコンパクトに纏められているので、入門書としても手頃。レイアウト的に見易いし、"ヴィジュアル版"の名に反さない綺麗な写真が収められていますが、ここまでくると"画集"的な要素を求めてしまい、そうした意味では、絵が小さいのが難(新書版だから小さいのは当たり前なのだが)。
有吉 玉青『恋するフェルメール―36作品への旅』['07年]『恋するフェルメール 37作品への旅 (講談社文庫)』['10年]
その他に、故・有吉佐和子の娘である有吉玉青氏の『恋するフェルメール』('07年/白水社)というのもあり、彼女もやはり17年かけて"全点踏破"したとか。熱心なファンがいるのだなあと感心させられます。
高階秀爾氏によると、彼の作品が脚光を浴びるようになったのは死後2世紀ぐらい経てからで、それまで長きにわたり埋もれていたようですが、氏の『名画を見る眼』('69年/岩波新書)に紹介されているルネッサンス期から印象派初期までの代表的な画家15人の中にも、このフェルメールは入っています。
利倉隆氏の『フェルメールの秘密』('08年/二玄社)は、"イメージの森のなかへ"というシリーズの1冊ですが、「ルソー」「レオナルド」「ゴッホ」と並んで刊行されたもので、同じオランダの先輩画家レンブラント(1606‐1669)を差し置いたことになります。
"イメージの森"と表象される本の構成が面白く、代表作「絵画芸術の寓意(画家のアトリエ)」の解説の仕方がその典型ですが、絵の部分部分(一葉一木)を見せていき、最後に全体(森)を見せていて、驚異的なまでに描き込まれた細部と全体との見事な調和が、インパクトを以って感じられるようになっています(フェルメールは、作品ごとに大きさが随分異なるのも特徴だが、小さいものは"細密画"の観もある)。
解説はオーソドックスですが、簡潔ながらも要領を得ていて、収録点数は全作品ではないですが、雰囲気的には鑑賞が主眼の「美術書」に近いのではないでしょうか(小中学校の授業みたいな語り口であり、本の構成自体も含め「教材的」とも言えるかも)。
構図やそこに込められた寓意については、岩波新書の高階氏の本や朽木氏の『フェルメール全点踏破の旅』でも知ることが出来、『全点踏破の旅』でも独特の色使いはわかりますが、この細部の細やかさや奥行きの深さは、本書のような大型本だと、より実感しやすいと思います。
高階氏は、「フェルメールの作品は、すべてが落着いた静寂さのなかに沈んでおり、一見派手ではないが、決して忘れることのできない力を持っている。彼の本領である光の表現にしても、同時代のレンブラントのようなドラマティックな激しさはなく、また、同じ室内の描写と言っても、ベラスケスのような才気もみられないが、そこには飽くまでも自己の世界を守り抜く優れた芸術家のがあるようである」(『名画を見る眼』)と言っていますが、本書は、その"小宇宙"に触れることができる1冊であるかと思います。
価格(1,995円)の割には掲載点数の少ないのがやや難かも知れませんが、リブロポートから出ている本格的な画集などになると、もっと値段が張ることになります(2万円)。
但し、ブームのお陰で、本書のような比較的入手し易い価格の作品集兼解説書のような本が多く出ています。