【882】 ○ 小野 一之 『あなたの大切な人が「うつ」になったら―治すために家族や友人ができること、できないこと』 (2007/02 すばる舎) ★★★★ (× 織田 淳太郎 『医者にウツは治せない (2005/08 光文社新書) ★☆)

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体験者が書いた本の中ではベストの部類。偏りがなく読みやすい小野氏の本。疑問を感じた織田氏の本。

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あなたの大切な人が「うつ」になったら―治すために家族や友人ができること、できないこと』 織田 淳太郎 『医者にウツは治せない (光文社新書)

 うつ病の体験者が書いた「うつ」の本の内の幾つかには、余りにその人個人の体験に引きつけて書かれているため、その点を注意して読んだ方が良いものがあるように思えます。例えば、スポーツ・ノンフィクション作家の織田淳太郎氏が書いた『医者にウツは治せない』('05年/光文社新書)などは、医者の診断力に疑念を呈し(誤診や的確でない薬物投与は少なからずあると思うが、極端なケースばかり例示している)、生物学的治療(薬物療法)を否定し、ウツは自分で治そうとのことで「呼吸瞑想法」などを提唱していますが、これは著者が「うつ」と言うより「適応障害」であったためと思われ、最近の研究成果などは度外視し、多くの面で自らが俗説に流され、少数事例を以って過剰に一般化しているように思えました(評価★☆)。同じ光文社新書に精神科医が書いた「うつ」の本もあるのですが...。
                    
 それらの「うつ」の体験本の中で、この著者(小野一之氏)が書いた本は、「うつ」治療の学術的状況や、実際に行われている治療をよく精査していて、自分の体験を語ることで説得力を持たせつつも、自らの言説の裏をしっかりとっている、という印象を受けます。

「うつ」は、ゆっくり治せばいい!.jpg 著者は、出版社に勤務していた44歳の時に「軽症うつ」を発症し、その後、退職してフリーのエディターになってからも「軽症うつ」を抱えて生きている人で、本書では、うつ病にはどのようなものがあり、どのような原因で発症するのかを概説したうえで、配偶者や恋人、親や子供、部下や同僚が「うつ」になった時、周囲の人はどのように対応し、また、本人と接したらよいのか、距離感をどう保てば良いのかなどが、わかりやすく書かれています。読みやすいだけでなく、サポートする側のつらさも踏まえて、しかも感情論に流されず書いている点が、他のうつ病の体験者が書いたものより優れていていると思いました。
小野 一之「うつ」は、ゆっくり治せばいい!

 著者の持論は、前著にもあるように「ゆっくり治す」ということ、とにかく、周囲の人はすべてを受け入れることが肝要で、薬物治療については著者も「薬物ではうつは治らない」との考えながらも、必要とする人もいるので、服用する場合には、長く服用を続けるのではなく、少しずつ減らすことをするよう勧めています。また、生活のリズムを整えることが必要で、スポーツの効用なども説いています。

 あることについて専門雑誌誌などの記事にする場合、ライター以上にテーマの周辺を精査するタイプのエディターがいて、ライターの記事が偏向しないように注意を払っているケースがありますが、そうしたタイプのエディターは概ね優れていると思えることが多く、本書は、著者のエディターとしての良質の部分が生かされているように思えます。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年4月20日 12:49.

【881】 ○ 野村 総一郎 『うつ病をなおす』 (2004/11 講談社現代新書) ★★★☆ was the previous entry in this blog.

【883】 ○ 貝谷 久宣 『気まぐれ「うつ」病―誤解される非定型うつ病』 (2007/07 ちくま新書) ★★★★ is the next entry in this blog.

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