【768】 ○ 額田 勲 『がんとどう向き合うか (2007/05 岩波新書) ★★★★

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医学が進んでも、難治性がんは残る。進行がんへの向き合い方、さらには人生について考えさせられる本。

がんとどう向き合うか.jpg 『がんとどう向き合うか』(2007/05 岩波新書) 額田 勲.jpg 額田 勲 医師 (経歴下記)

 著者は長年地方医療に携わり、多くのがん患者と接してきた経験豊富な医師で、がん専門医ではないですが、がんという病の本質や特徴をよくとらえている本だと思いました。

 がん細胞というのは"倍々ゲーム"的に増殖していくわけですが、本書によれば、最初のがん細胞が分裂するのに1週間から1年を要し、その後次第に分裂速度が速まるということで(「ダブリング・タイム」)、1グラム程度になるまでかなり時間がかかり、その後は10回ぐらいの分裂で1キロもの巨大腫瘍になる、その間に症状が見つかることが殆どだとのこと。

 細胞のがん化の開始が30代40代だとしても数十年単位の時間をかけてがん細胞は増殖することになり、つまり、がんというのは潜伏期間が数十年ぐらいと長い病気で、早期発見とか予防というのが元来難しく、長生きすればするほどがん発生率は高まるとのことです。

 以前には今世紀中にがんはなくなるといった予測もあり、実際胃がんなどは近年激減していますが、一方で膵臓がんはその性質上依然として難治性の高いがんであり、またC型肝炎から肝臓がんに移行するケースや、転移が見つかったが原発巣が不明のがんの治療の難しさについても触れられています。

 こうした難治性のものも含め、"がんと向き合う"ということの難しさを、中野孝次、吉村昭といった著名人から、著者自らが接した患者まで(ああすればよかったという反省も含め)とりあげ、更に自らのがん発症経験を(医師としてのインサイダー的優位を自覚しながら)赤裸々に語っています。

 医学的に手の打ち様がない患者の場合は、対処療法的な所謂「姑息的な手術」が行われることがあるが、それによって死期までのQOL(Quality of Life)を高めることができる場合もあり、抗がん剤の投与についても、「生存期間×QOL」が評価の基準になりつつあるとのこと。

 著者は、がんについて「治る」「治らない」の二分法で医療を語る時代は過ぎたとし(最近のがん対策基本法に対しては、こうした旧来のコンセプトを引き摺っているとして批判している)、進行がん患者にはいずれ生と死についての「選択と決断」を本人しなければならず、それは人それぞれの人生観で違ったものとなってくることが実例をあげて述べられていて、医療のみならず人生について考えさせられる本です。
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糠田 勲 (ぬかだ・いさお)
1940年、神戸市灘区生まれ。京都大学薬学部、鹿児島大学医学部卒業。専門は内科。2003年、全国の保健医療分野で草の根的活動をする人を対象にした「若月賞」を受賞。著書に「孤独死―被災地神戸で考える人間の復興」(岩波書店)など。

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額田勲(ぬかだ・いさお)医師 神戸みどり病院理事長
2012年7月12日午後8時43分、原発不明のがんのため神戸市西区のみどり病院で死去。72歳。阪神・淡路大震災発生後、被災地医療で献身的役割を果たし、脳死などをめぐる医療倫理を社会に問い掛けた。

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