【621】 ○ 町田 康 『告白 (2005/03 中央公論新社) ★★★☆

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「河内十人斬り」の惨劇に材を得た作品。終局の描写は素晴らしいが...。

告白.jpg  『告白』['05年/中央公論新社]河内音頭 河内十人斬.jpg「河内音頭 河内十人斬」CD

 2005(平成17)年度・第41回「谷崎潤一郎賞」受賞作。

 明治26年に河内水分で、農家の長男・城戸熊太郎が、妻を寝取られた恨み、金を騙し取られた恨みから、同じく村の者に恨みを抱くその舎弟・谷弥五郎と共謀し、村人10人を惨殺したという事件(「河内十人斬り」という任侠的な敵討ち物語として、河内音頭のスタンダードナンバーにもなっている)を題材にしたもの。

 単行本の帯には「人は人をなぜ殺すのか」とあり、かなり重苦しい雰囲気の物語かと思いきや、酒と博打の生活から抜け出せないダメ男・熊太郎を、河内弁と独特の"町田節"で落語みたいにユーモラスに描いていて、そのアカンタレぶりに対する作者の愛着のようなものが滲み出ています。

 熊太郎という男は言わばヤクザ者ですが、もともと進んで悪事を働くような人物ではなく、他人を思いやることもできる人間なのに、いつも他人に誤解され、割を食って損ばかりしている、それを自分では、自分が思弁的な人間であり、自分の心情をうまく言葉にできないためだ感じている人物です。

 小説の中では随所にその熊太郎のねちっこい"思弁"が内的独白として語られ、その彼が凶行に及んだ最後の最後で、思っていることを言葉にしようとする、そこにタイトルの『告白』の意味があるということでしょう。

 カタストロフィに向かう終局の描写は素晴らしく、そこに至るまでのユーモラスなプロセスは、対比的な効果を高めることに寄与しているとは思いますが、進展がないまま同じような出来事が続いているような印象もあり、やや冗長な感じがします。

 ただし、人物造型といい語り口といい"町田ワールド"ならではのユニークさで、読み終えてみれば力作には違いないとの感想は持ちましたが、テーマ的には、「人は人をなぜ殺すのか」と言うより、「熊太郎はなぜ人を殺したのか」という話であるように思えました。
 
●朝日新聞・識者120人が選んだ「平成の30冊」(2019.3)
1位「1Q84」(村上春樹、2009)
2位「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ、2006)
3位「告白」(町田康、2005)
4位「火車」(宮部みゆき、1992)
4位「OUT」(桐野夏生、1997)
4位「観光客の哲学」(東浩紀、2017)
7位「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド、2000)
8位「博士の愛した数式」(小川洋子、2003)
9位「〈民主〉と〈愛国〉」(小熊英二、2002)
10位「ねじまき鳥クロニクル」(村上春樹、1994)
11位「磁力と重力の発見」(山本義隆、2003)
11位「コンビニ人間」(村田沙耶香、2016)
13位「昭和の劇」(笠原和夫ほか、2002)
13位「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一、2007)
15位「新しい中世」(田中明彦、1996)
15位「大・水滸伝シリーズ」(北方謙三、2000)
15位「トランスクリティーク」(柄谷行人、2001)
15位「献灯使」(多和田葉子、2014)
15位「中央銀行」(白川方明2018)
20位「マークスの山」(高村薫1993)
20位「キメラ」(山室信一、1993)
20位「もの食う人びと」(辺見庸、1994)
20位「西行花伝」(辻邦生、1995)
20位「蒼穹の昴」(浅田次郎、1996)
20位「日本の経済格差」(橘木俊詔、1998)
20位「チェルノブイリの祈り」(スベトラーナ・アレクシエービッチ、1998)
20位「逝きし世の面影」(渡辺京二、1998)
20位「昭和史 1926-1945」(半藤一利、2004)
20位「反貧困」(湯浅誠、2008)
20位「東京プリズン」(赤坂真理、2012)
4位「火車」(宮部みゆき、1992)
4位「OUT」(桐野夏生、1997)
4位「観光客の哲学」(東浩紀、2017)
7位「銃・病原菌・鉄」(ジャレド・ダイアモンド、2000)
8位「博士の愛した数式」(小川洋子、2003)
9位「〈民主〉と〈愛国〉」(小熊英二、2002)
10位「ねじまき鳥クロニクル」(村上春樹、1994)
11位「磁力と重力の発見」(山本義隆、2003)
11位「コンビニ人間」(村田沙耶香、2016)
13位「昭和の劇」(笠原和夫ほか、2002)
13位「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一、2007)
15位「新しい中世」(田中明彦、1996)
15位「大・水滸伝シリーズ」(北方謙三、2000)
15位「トランスクリティーク」(柄谷行人、2001)
15位「献灯使」(多和田葉子、2014)
15位「中央銀行」(白川方明2018)
20位「マークスの山」(高村薫1993)
20位「キメラ」(山室信一、1993)
20位「もの食う人びと」(辺見庸、1994)
20位「西行花伝」(辻邦生、1995)
20位「蒼穹の昴」(浅田次郎、1996)
20位「日本の経済格差」(橘木俊詔、1998)
20位「チェルノブイリの祈り」(スベトラーナ・アレクシエービッチ、1998)
20位「逝きし世の面影」(渡辺京二、1998)
20位「昭和史 1926-1945」(半藤一利、2004)
20位「反貧困」(湯浅誠、2008)
20位「東京プリズン」(赤坂真理、2012)

 【2008文庫化[中公文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2007年4月21日 11:11.

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