【539】 ○ 吉行 淳之介 『軽薄のすすめ (1973/01 角川文庫) 《軽薄派の発想 (1966/02 芳賀書店)》 ★★★★

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「重厚コワモテ」に対する「軽薄さ」。軽妙でみずみずしい語り口。

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軽薄派の発想 (1966年)』芳賀書店 『軽薄のすすめ』角川文庫〔'73年〕(表紙イラスト:和田 誠/松野のぼる)
角川文庫版/新装セミハードカバー版(角川書店)
吉行淳之介.jpg吉行 淳之介 『軽薄のすすめ』.jpg吉行 淳之介 『軽薄のすすめ』sh.jpg エッセイ・対談の名手でもあった吉行淳之介(1924‐1994)ですが、本書は'66(昭和41)年刊行の単行本『軽薄派の発想』(芳賀書店)を元本として、'73(昭和48)年に角川文庫として刊行されたもので、さらにこの角川文庫版は、新装セミハードカバー版として'04(平成6)年に角川書店から刊行されています(山口瞳の解説を含む)。

 新装版の冒頭に著者により書き加えられた前書きがあり(これを書いた翌月に著者は70歳でその生涯を終えるのですが)、「軽薄短小」の時代が来たなどと言われるなかで、著者の言う「軽薄」は、硬直・滑稽・愚直、さらには"軽薄"という要素も含む(戦時中からの)「重厚」に対する対立概念であることが示されています。ただし、単にユーモアと解してもらってもよいと...。

 久しぶりに読み直してみて、このあたりのニュアンスがよくわかりました。「重厚コワモテ」に対し「軽薄さ」が批判力、破壊力を持ち得ることを、ダダイズムなどを引き合いに説き、"戦中少数派"としての 戦死者に対する独自の"犬死論"を展開する部分もあります。自伝的要素もかなりあり、父エイスケ氏(NHKの朝の連ドラ「あぐり」で野村萬斎が演じたのが印象的だった)との関係などに触れた部分は興味深いものでした。

 もちろんユーモラスな話も多く、冒頭の、俳句の下の句に「根岸の里の侘住い」とつければ上の句は何がきてもOKという話や、遠藤周作ら「第三の新人」仲間とのエピソードなどはおかしい。さらには十八番の男女の機微についての話や、創作に関する話、スポーツ観戦記など内容は盛りだくさんで、軽妙で、今もってみずみずしい語り口でいずれも飽きさせません。

 因みに'73(昭和48)年は、吉行のエッセイ・対談集の文庫化ブームの年で、1月に角川文庫で『軽薄のすすめ』が出たのを皮切りに、3月に 『不作法のすすめ』、8月に 『面白半分のすすめ』...といった具合に立て続けに刊行されていて、対談集も7月に『軽薄対談』が、同じ月に講談社文庫でも『面白半分対談』が刊行されるなど、それまでの彼の文学ファン以外の読者からも多く注目を集めた年だったわけです。

 【1966年単行本[芳賀書店]/1973年文庫化[角川文庫]/1994年ソフトカバー新装版[角川書店]】

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