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キャラクター小説のように読め、面白くもあり、危うくもある"作品"。
『24人のビリー・ミリガン―ある多重人格者の記録〈上〉』『24人のビリー・ミリガン―ある多重人格者の記録〈下〉』単行本['92年] "The Minds of Billy Milligan" 『24人のビリー・ミリガン〔新版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』『24人のビリー・ミリガン〔新版〕 下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』2015年再文庫化〔新版〕
中国語版
ベストセラー小説『アルジャーノンに花束を』('78年/早川書房)は、面白かったし、しみじみとした気分にもなった本でしたが、本書は同じ著者によって1981年に発表されたノンフィクションで、"多重人格"という言葉を世に広めた本だとされています。本書も『アルジャーノン...』と同様に、世界的ベストセラーになりました。
本書では「多重人格性障害」という用語を使っていますが、米国精神医学会はその後、診断基準DSM-IVにおいて「解離性同一性障害」と呼称変更しています。分裂した個々の"人格"は正しい意味での(独立し統合化された)"人格"とは言えないので、"多重人格"という表現は正確さを欠くということでしょう。考えてみれば至極当たり前なことかも。
でもこの本の著者は、むしろそうした考えとは逆の方向へ行っている気もします。この本自体がキャラクター小説のようにも読めるのです。だから、すごく面白いのですが...。
話している相手(ビリー)が"今どのキャラなのか"すぐには分からないというのには、かなりスリリングな衝撃を受けました。もちろん1人の青年の脳の中で起きていることだと分かっているのですが、まるで1つの施設のようんなところで共同生活している幼児から青年までの男女が順番に登場してくる舞台劇みたいですし(単行本下巻の表紙絵がそうしたイメージをよく表している)、その中で誰が犯人なのかを追うミステリーのようにも読めます。
ノンフィクションでありながら、著者の作家性を感じないわけにはいかないし、その分ひきこまれる面白さもあり、危うさもある「作品」だと思います。
"The Minds of Billy Milligan"
【1999年文庫化[ダニエル・キイス文庫(上・下)]/2015年再文庫化〔新版〕[ハヤカワ・ノンフィクション文庫(上・下)]】