【252】 ○ 川西 政明 『「死霊」から「キッチン」へ―日本文学の戦後50年』 (1995/09 講談社現代新書) ★★★☆

「●文学」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【939】 小林 恭二 『短歌パラダイス
「●講談社現代新書」の インデックッスへ

埴谷雄高から村上春樹・龍、吉本ばななまで。作品ごとの世界観に触れた文芸評論として読めた。

「死霊」から「キッチン」へ2.jpg「死霊」から「キッチン」へ―9.jpg
「死霊」から「キッチン」へ―日本文学の戦後50年』講談社現代新書 〔'95年〕

 本書は'95年の刊行で、それまで戦後50年の日本文学が何を表現してきたかを、時代区分ごとに、代表的な作家とその作品を1区分大体10人または10作品ぐらいずつ挙げて解説しています。

 埴谷雄高、武田泰淳(「ひかりごけ」)、大岡昇平(「俘虜記」)、三島由紀夫(「金閣寺」)などの「戦後文学者」から始まり、遠藤周作(「沈黙」)ら「第三の新人」などを経て、安部公房(「デンドロカカリア」、「砂の女」ほか)から中上健次(「岬」ほか)までの時代、さらには大庭みな子(「三匹の蟹」ほか)から松浦理英子(「親指Pの修行時代」」)までの女流作家、村上龍(「限りなく透明に近いブルー」、「五分後の世界」)、村上春樹(「羊をめぐる冒険」、「ねじまき鳥のクロニコル」ほか)、吉本ばなな、などの近年の作家までをカバーしています。

 「世界のかたちの与え方」というのが著者の作品解説の視座になっていて、埴谷雄高も安部公房も大江健三郎も、そして村上春樹も、それぞれ別の世界にいるのではなく、同じ世界の上にいながら「世界のかたちの与え方」が時代の流れとともに変ってきているのであり、埴谷、安部、大江らが世界に通じる新しい通路を開いてきたからこそ、現在、村上春樹によって新しい通路を開かれつつある、といった見方が解説基盤になっています。

 大江健三郎に単独で1章を割いていて、大江作品では常に「谷間の村」が基点になっているといった読解や「雨の木(レイン・ツリー)」の発端がどこにあったかという話は、本書を読む上で、大江ファンにはいいアクセントになるのでは(本書では、大江はもう新たな小説を書かないことになっていますが)。

 「雨の木(レイン・ツリー)」が何のメタファーかを論じると同じく、他の作家、例えば、村上春樹の「羊」などについても、メタファーの解題を行うなどしており、戦後から現代にかけての作品を俯瞰するテキストにとどまらず、各作品で描かれていた世界観に触れた文芸評論として読めました。

1 Comment

川西 政明氏(かわにし・まさあき=文芸評論家)2016年8月26日、急性心筋梗塞のため死去、75歳。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2006年8月24日 00:47.

【251】 ◎ 中村 光夫 『日本の現代小説』 (1968/04 岩波新書) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【253】 ◎ 橋本 治 『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』 (2002/01 新潮社) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1