【067】 × 梅森 浩一 『「クビ!」論。 (2003/06 朝日新聞社) ★★

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外部人材市場が充分に形成されていない環境での雇用調整は、また別の話ではないか。

「クビ!」論。.jpg 『「クビ!」論。』 朝日文庫 〔'04年〕

 著者は、外資系の銀行や証券会社で人事部長を歴任し、1000人を超える社員のクビを切って「クビキラー」と恐れられた人だそうですが、本書の前半部分では、外資系企業において解雇通告が実際どのように行われるかが生々しく語られていて、社員を「自主退職」に追い込むテックニックなどが述べられています。

 人事担当者が読んで参考になるというよりも、身につまされる思いで読んだサラリーマン読者が多かったのではないでしょうか。
 中盤ではそうした社員側に立ち、どんな社員がクビになるか社員としての防衛策を説き、後半では、日本企業で行われているクビ切りのあり方を批判しています。

 外資系企業と日本企業の人材に対する考え方の違いがわかる一方、著者の経験が金融・証券という特殊な業界に限られているので、「ウチも外資だけれど全然違うよ」といった感想を抱く人も多いかと思います。

 著者は「解雇通告」をしただけで、実際にリストラの決定を下したのは経営陣のはずですが、そのあたりの経緯や状況がM&Aであるということ程度しか述べられていないのでよくわからない。
 また、日本企業の(一般の職種)のように外部の人材市場が充分形成されていない環境での雇用調整に対して、外資系の企業の(金融スペシャリスト)のやり方を倣え的な論法は、無理があるような気がします。

 外資系企業を辞めさせられた社員が再就職支援サービスを意外と利用しないのも、スペシャリスト人材の市場があるからであり、訴訟問題が少ないのも、そんなことに費やす時間が勿体無かったり、訴権放棄約款があったりするからで、逆に日本の中小企業においては、再就職支援サービスなどの退職パッケージを用意できる企業さえ稀な方ではないでしょうか。

 突っ込みたくなる所は多いのですが、「自分で考え自分で生きようとしない」日本のサラリーマンに対する憤りはわからなくもなく(なぜか団塊の世代に著者の矛先が集中している)、リストラを行っている側の現場の声がこうして上がってくるのが珍しいことも、本書がベストセラーになった要因の1つでしょう。

 【2004年文庫化[朝日文庫]】

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